韓国ドラマ 「100日の郎君様」 によせて

           丁 齋尹 を演じた 金 宣虎 さんへ

 

      To Korean Drama "A hundred days my prince "
     for KIM SEON HO who played the part of Jung Jeyung

          This story is fan fiction and 

          spin out (spin-off) from 

          "A hundred days my prince".
          The hero is Jung Jeyung.

          He does politics in this story.



 

          このお話は二次創作です
  2020年 NHKで韓国ドラマ「100日の郎君様」が放送されました 

  終了後の「郎君様」loss を回避すべくこのお話を思いつきました
  コロナ禍の不安な時間とストレスの中 お話創りに楽しく没入しました
                         

 

       全ての登場人物が魅力的だったこのドラマですが
       その後のお話はチョン・ジェユンが主人公です

                素敵だったチョン・ジェユン 

                彼を素敵に演じたキム・ソンホ

                このお話は二人への恋文かな...

 

 

 

世子 イ・ユルを支えてのあの活躍の後、今現在のチョン・ジェユンは

ユルの懐刀としてその側近くに仕えている

 

チョン・ジェユンの職務は政のみならず、ユルの私的な用件に関わるなど

多岐にわたる

例えばかねてよりの懸案であった、ユルの意向によるイソの護衛官採用の件も

結局は彼 チョン・ジェユンに一任された

 

有能である彼は誠に忙しい日々を送っている

 

世子 イ・ユルが想い人 ユン・イソを王宮に迎え入れてから

初めての春が訪れようとしていた

 

暦は如月  ところは李氏朝鮮の都  漢陽

 

 

 

   【早春のモジョン橋】
曇りがちの十五夜

チョン・ジェユンはモジョン橋の中程にいる

彼の視線の先には ―――

 

ようやく蕾のふくらみ始めた桜の木を見上げている

一人の若者がいた

 

ジェ: 変わった出立ちだ 異国の者か...
 

十五夜の月に雲がかかり始める

 

ジェ: ゆるく弧を描いた優しげな眉 切れ長の目...

        なんと涼やかな少年だ

 

月が隠れ、辺りが暗くなる  若者 橋を渡り始める 


ジェユン 明の言葉で声をかける 
 

ジェ: 残念ですね 

        せっかくの十五夜なのに月が隠れてしまいました     

        もうじき雨が降りますよ
 

若者 いぶかし気な目をして一瞬ジェユンを見るが

無言のまま通り過ぎる
 

 

         

   【ひと月程前  慶尚道 釜山 大きな構えの商家】
養父: おお! 桜! 待っていたぞ     

        無事に着いてなによりだ 疲れただろう


 桜  : おとうさん おとうさんの顔を見てほっとしました 

         久方ぶりの朝鮮国は慣れなくて


養父: さ、さ、中に入りなさい 


養父 桜を部屋に招き入れて
養父: やっと桜のお父上との約束が果たせました 

    もう二十年近い月日が経ってしまった


 桜  : はい、十八年です  

        私は倭国でおとうさんとずっと暮らしてもよかったのに
 

養父: いや、それはならぬ

        桜はお父上の願いをかなえねばならない 
 

 桜  : お父さまは何を願われたのでしょう
 

養父: それは桜が漢陽に行って探すこと 

   桜が望むことがすなわちお父上の望むこと 
         左議政キム・チャオンの一族が失脚した今なら

         漢陽に行っても危険ではないはずだ


養父 箪笥の引出しから紙を取り出す
養父: 慶州の役人に新しい戸籍を作らせた
 

 桜  : 値の張る賄賂だったはず
 

養父: なんのこれしきのこと.. 漢陽には家を用意してある
 桜  : そんなことまで
 

養父: 商いに使うことも考えて用意したのだ 

        気にすることではない 

        小さいが街の中心に近いところだ

 

 桜  : おとうさん ...
 

養父: これからのことは桜次第 

        自分の手で道を切り開くのだ

 

 


   【漢陽 養父の用意した家】
市場の通りの裏手 小さいが設えの良い家 

剣、 小太刀、弓矢等が置いてある

 

桜 倭国の衣で男装し、街に出て行く
 

 桜 : やはり都のにぎわいは違うわ 

        この人の多さ 店の多さ    商品の種類も数も全然違う
 

道行く人が桜を見て振り返る
 桜 : 慶尚道ではこの衣を着ていても目立たなかったのに 

   漢陽では珍しいのかしら     あら? あれは何?
 

張り紙のあるところに人だかりが出来ている


 

   【モジョン橋の袂】
日が落ち、月が照り始めるが曇りがちな十五夜

 

 桜 : 漢陽に来てまだ三日というのに、

       あの触れ書きは...


立ち止まり空を見上げる

 桜 : 美しい月と.. 桜... 桜の蕾が紅くふくらんでいる
 

桜 橋を渡り始める 

橋の中程にいた背の高い男が声をかける

 
ジェ: 残念ですね 

        せっかくの十五夜なのに月が隠れてしまいました 

        もうじき雨が降りますよ
 

 桜 : (これって明の言葉かしら 分からない 無視しよう)
桜 無言で通り過ぎる 

 

ジェユン 苦笑しながら見送る


 

   【市場の家】
桜 養父に文を書く


“おとうさん お健やかでいらっしゃいますか
 今日漢陽の街に王宮で女人の護衛官を公募する

 御触書が出されました  応募しようと思います”
 

外に雨音が聞こえる 戸を開け外を見る
 桜 : 雨だわ 春の雨..
       あのモジョン橋の人   雨が降ると言いたかったのね 

       変わった人と思ったけど、

       私の方が変わった衣を着た変な人だったのかも


 

   【王宮の演習場】
クォン・ヒョク 採用試験の担当官
二十人程の女人がそれぞれ立ち合う 

クォン・ヒョク 桜の立ち合いを見て

 
 ク : その木剣、慣れていないのでは?
 桜 : はい いつも使っているものとは形も重さも違うので
 ク : 自分のものを使うことを許可します
 桜 : ありがとうございます
 

桜の立ち合い 格段によくなる
 ク : 変わった形の木剣に変わった構え.. 異国の武術か 
       では、次はご自分の得意とする武器を披露下さい
 

ユルとジェユン 建物の中から様子を見ている
桜 小太刀と手裏剣を披露する


 

   【筆記試験と面接】
十人の女人で二次試験  

ユル (武官の衣) ジェユン ヒョク 面接をする


ジェ: 筆記試験にはてこずっていたようですね 
 桜  : はい たいそう難しゅうございました


ジェ: 先程の実技では変わった武器を使っておられたが
 桜  : 倭国のもので小太刀と手裏剣でございます 

   私には小振りのものが扱いやすいのです


ジェ: 倭国?
 桜  : 乗っていた船が遭難し、少しの間倭国で暮らしました
ジェ: 倭国の言葉を話せるのですか?
 桜  : はい 私は中人(チュンイン)ではありませんが

        文字を読むことも書くことも出来ます


 

   【ジェユンの執務室】      ユル  ジェユン  ヒョク
ジェ: この倭国にしばらくいたという女人 
 ク  : サ・クラという名です

ユル: 立ち合いはどうだった?
 ク  : さほど出来るとは思えないのですが、負けないのです


ユル: 負けない剣か
 ク  : 太刀筋は素直で柔らかく..   品のようなものを感じました
ジェ: お前..大丈夫か? 恋にでも落ちたか?
 ク  : ン?


ユル: 武芸には人の有り様がでるものだ 

        あの左議政 キム・チャオンの剣は武神ではなく鬼神の剣であった


 

   【王宮からの帰り道】
桜 衣から戸籍を取り出す
 桜 : ウーム .. サ・クラか 変な名前 

       倭国ならおくらさんて呼ばれるのよね
戸籍を衣に入れる


 桜 : もう春だというのに肌寒い   漢陽は梅の木が多いのかな 

       桜を見るなら、モジョン橋  

       そう言えばモジョン橋で会った方、身分の高い方だったのね
 

道が林の中に続いてゆく
 桜 : ここは桜林... まるで桜通りだわ 

       桜が咲いたらさぞ見事でしょうね


程なく荒れ果てた屋敷に行きあたる
 桜 : このお屋敷... こんなに荒れ果てて...
 

 

   【翌日 王宮の一室】      

ユル (武官の衣)  ジェユン  ヒョク  クラ 
ジェ: 昨日 倭国の言葉の読み書きが出来ると言ったが

   これを読んでみて下さい
クラに書物を渡す


 サ  : これは 「源氏物語」仮名書きの書物ですね  雨夜の品定め
クラ書物を読む
三人: ・・・?
 サ  : 朝鮮国の言葉にいたしますか?
ジェ: そうしてみて下さい
 

 サ  : はい
        雨の続く日の夜 宮中にいらした若い宮人達が

        それぞれに話をしつつ集い、

        やがて話は女人のこととなりました
 

        宮人の一人が身分の高い女人だけが佳き人とは限らない  

        中流の、あるいは街中にも佳き人はいるもので、
        などと申され云々 

        源氏の君はたいそう興味深く聞き入っておられ...
 

三人: ・・・
三人 顔を見合わせる


 サ  : これは艶本ではございません 

        五百年も前から読み継がれているれっきとした文学です 
ジェ: あ..ああ そうだ 大変有名な物語なのは知っています
 

ユル ジェユンをにらむ
ジェ: 大変長い書物なので、あー、ここを持って来たのだが 

   選んだところが悪かったようだ 別のところを...
 サ  : いいえ、この源氏の君という方は色恋がお好きなのです 

        後に多くの妻や愛人を持つのです
        高い位について公務も忙しいというのに 
 

ジェユン ユルの視線を感じつつ
ジェ: この国の王様や世子様には考えられない話です 

   たった一人の女人を生涯かけて愛するはずですから
ユル: ム.. ン


ジェ: では読むことが出来るのは分かりましたので

   何か書いてみて下さい
筆と紙を渡す 

クラ さらさらと書いて紙を見せる 

倭国の言葉で 
 サ  : 春は曙 やうやう白くなりゆく山際 少し明かりて

        紫だちたる雲の細くたなびきたる


ユル: フム 美しい響きだ 意味もなんとなく分かる  

        春、明け方の移り行く色の美しい情景だ 
 サ  : はい「枕草子」の初めの部分でございます 

        これも五百年程前「源氏物語」と同じ頃

        同じ宮中にて書かれたものです 


ユル: ではそれを訳しておいてほしい
 サ  : 漢文でしょうか それとも諺文(おんもん)でしょうか
ユル: 仮名書きの書物故、諺文がよい


 

   【市場の家】
クラ 養父に文を書く


"おとうさん 護衛官の試験に合格いたしました
  明日王宮にて辞令をいただきます 

  お仕えする方は世子様の奥様のようです
  女人の護衛官は私を含めて五人です 

  皆様武芸に秀でているだけでなく、云々”
 

サ : あの背の高いハ・クネさんて、武芸がすご過ぎ 

      お稽古でも立ち合いたくないなあ...


 

  【王宮 通明殿 (トンミョンジョン)】
女人の護衛官五人 護衛官の正装をしてイソに謁見


 

   【ユルの部屋】      

ユル イソ くつろいでいる
イソ: 私のためにあの五人の者を仕官させたのですね 
ユル: 女人ながら皆武芸に優れている 

        男の護衛よりよい時もあるだろう
イソ: はい 街に出ても楽しく過ごせそうです 


ユル: そなたの実家は遠くにあり、度々帰ることも出来ぬ
        友も側にはいない 

        女官やこの護衛官達と信頼出来る良い関係を築いてほしい
イソ: はい そういたします


イソ 書類を見ながら 
イソ: あの背の高い娘がハ・クネ 

        この者とサ・クラが常民 (サンミン) 
        他の三人は両班(ヤンバン)の娘 漢陽や京畿道出身 

   サ・クラだけ遠い所の出身なのですね
ユル: その者は倭国の言葉を話せて読み書きも出来る 

    艶本をれっきとした文学だと言った
イソ: あら...


 

   【ユン家の屋敷跡】 

クラ 平民の衣を着て髪を結っている 
 サ : 桜が咲いているかと思って来てみたけど.. まだなのね 

       このお屋敷は住む人がいなくなって何年位経つのかしら


屋敷の中から猫の鳴き声がする
 サ : 子猫だわ 何処にいるのかな?
子猫を探しに屋敷の中に入る 

 

ユルとイソ ヒョクとイソの護衛官を伴い屋敷に来る
ユル: 小学 (ソハク)を暗誦したとそなたに伝えたくて、

        心踊らせて急いだ道だったが十八年経っても心は痛む 

        ましてそなたは...
イソ: 元のようにとは申しません  少しだけ手を入れていただければ 

        ウン.. 少しだけでいい
ユル: 少しだけと言わず、

        ここはそなたの実家なのだからきちんと直そう 
 

ガタガタ..... ゴソゴソ.. 屋敷から音がして中から人が出て来る 

ヒョク 素早く剣を抜く
 サ  : ウワァッ!!
イソ: ワァ! 何、 クラではないの 何、そのクモの巣
 サ  : イソ様こそどうしてここに? 

       クォン・ヒョク様に面接官様も   あら、お召し物が違う
 ク  : 世子様である
 サ  : 世子様... 申し訳ありません ご無礼いたしました


下がろうとした時衣の胸の部分がモゾモゾと動く
 サ  : あ.. あ
イソ: 何? どうしたの?
クラ 衣から子猫を二匹取り出す
 サ  : 先程鳴き声がしたので.. 中にいました 

        母猫を捜したのですが、近くにいないようなのです


イソ: まあ 真っ白の猫 目が青と緑の片方ずつなんて珍しい 
 サ  : こっちは三毛の男の子で、倭国では船乗りが大切にするんです
イソ: おなかがすいているようね
 サ  : 山羊か牛の乳を飲ませます
イソ: 王宮に行けば乳はあるから、私が飼うことにします 
 サ  : え? そんな、駄目です 

        私が育てようと思って連れて来ました


イソ: クラは家に誰かいるの?
 サ  : いえ
イソ: でしょ あなたが家にいない時どうするの?
 サ  : え~ でも私が先に見つけたんです
イソ: ほら、私にもこんなになついている 
 サ  : え~ でも


ユル: 猫のことで言い争うのはやめよ  
       その猫たちは書庫の見張り番とする 

       よって王宮で育てるが、二人で面倒をみればよいではないか
イソ: 書庫の見張り番ねえ... 
 サ  : こんなに小さいのに働くの?
ヒョク 笑いをこらえながら
 ク  : ご英断です


 

   【王宮 後宮の一室】
イソと護衛官五人 女官から作法を習っている 
女官: 今日はこのくらいにいたします 

        皆様大変筋がよろしゅうございます 

        ではペスクなどお持ちしましょう


女官退室     イソ、五人が神妙にしているので 
イソ: 次はお裁縫の時間ね 

        ペスクを飲みながら気楽にやりましょう
五人 少しなごむ


イソ: クラ、クラはこの前 何故民の衣を着ていたの?
 サ  : 私は民ですし、非番だったので
イソ: 髪を結ぶのは結婚している女人よ 
 サ  : 知りませんでした 

        私くらいの歳の女人は皆そのようにしているのだと...


 

   【裁縫の時間】
イソも含め皆、悪戦苦闘している
 ハ : 私達にこのようなことは合いません
 他 : 護衛官が裁縫をしても...
 ハ : 裁縫をするより剣術の稽古をしなくては
 他 : 今日は弓の練習の予定です
他全員: では弓場に行きましょう  "そうね そうね"


 ハ : ではイソ様 私達は弓場に参ります
全員 退出しようとする
イソ: クラは残るように     
 サ  : ?
イソ: 猫たちに乳をあげなくては
 

   【イソの部屋】
イソ クラ 猫の世話をしながら
イソ: 世子様がクラから倭国の言葉を教えてもらうようにと仰せなのです
 サ  : 私から?
イソ: 通訳官から習うより気が楽だろうと
 サ  : 世子様はイソ様にはお優しいのですね 


イソ: 夕餉を用意させるわ 何か食べたいものはない?
 サ  : あの 明日ではいけませんか?
イソ: どうして?
 サ  : 桜を見に行きたいと思ったのです 

        今年は忙しくてまだ桜を見ていませんし、明日は天気が崩れそうです
イソ: 今日のうちに見た方がいいわね   何処に行くの? 
 サ  : 先日のお屋敷の周りが見事な桜林なのです
イソ: 私も一緒に行くわ


 

   【夕刻 桜林】    イソ  クラ (護衛官の衣 剣を背にする)
イソの輿 桜林のはずれで待機


 サ  : 少しの風でこんなにハラハラと... 散っている
イソ: やはり今日来てよかったわね  明日が雨なら散ってしまうもの 

        あら... ジェユン様


ジェユン 女人を連れ、花見をしている

イソ: ジェユン様といっしょの女人は.. 
 

ジェユン イソに気が付き足早に近づく
ジェ: イソ様 お久しぶりです お忍びで花見ですか? 

        やはりこのような時は女人の護衛がよいですね 


ジェユン クラを見る   クラ ジェユンに一礼する
 

イソ: ジェユン様といっしょのあの女人は確か.. 

        ソンジュソンにジェユン様を

        追いかけてきた妓生(キーセン)ですね
ジェ: あ... ええ その


エウォル 三人の方に歩み寄りながら
 エ  : おととし、去年と反故にされた花見の約束を

        やっと今日果たしていただいているところです
イソ: まあ... 三年越しの約束なんて 薄情な 
ジェ: それは私が大変忙しかったからで...


 エ  : イソ様、世子様にお伝え下さい 

        ジェユン様は働きづめです 妓楼にもいらっしゃれない程
ジェ: エウォルの言うことは気にしないで下さい 

        私は妓楼に行きたい訳ではありませんので 
 エ  : 世子様がいつもお側にお呼びです


イソ: お伝えしておきます 

        たまには妓楼に行かせるようにと
ジェ: 私は別に妓楼に行きたいとは..
 サ  : 私は行ってみたいです
 エ  : まっ! なんて生意気な護衛なの! 

        護衛のくせに口を挟むなんて
 

一陣の風が吹き、桜の花びらが舞い散る 

イソとクラ 思わず手をのべ、花びらを受けようとする
ジェ: ? (サ・クラは姿 形 佇まいがイソ様と似ている)


 

   【王宮への帰り道】
 サ  : イソ様 妓楼って、身分の高い方達が

        いろいろなお話をなさるところですよね
イソ: そうね 秘密の話とか、 いろいろ
 サ  : ジェユン様も身分の高い方ですもの 

         行かなくていいのかしら..
イソ: さあ...

 

 

   【市場の家の前】
文を持った使いの者が待っている
 使 : サ・クラさんですか?         

 サ:ええ

 使 : では、これを
文を渡して立ち去る   クラ 文を読む
 サ : おとうさんが漢陽にいらっしゃる..  近いうちに


 

   【王宮 演習場】      ヒョク他内禁衛(ネグミ) 従事官五名
内禁衛と女人の護衛官の演習  ユルとジェユン 密かに見ている


 サ : すごい ハ・クネさんはすごい 

       クォン・ヒョク様を相手に一歩も引いてない 

       私はあの二人とは立ち合いたくない.. な 
クォン・ヒョクがハ・クネの剣をはじいて立ち合い終了
 ハ : ありがとうございました
 ク : では、次 サ・クラどの
 サ : はい ただ今準備いたします 
 

ユルとジェユンの近く 物置棚がある  棚に布包みが数個置かれている
クラ足早に棚に近づき、自分の荷物を捜す
 サ : あれ..? おかしい 確かにここに置いたのに... ない 

       私の小太刀と手裏剣、どうして?


 ク : クラどの どうかしたのですか?
 サ : あ~ クォン・ヒョク様 私はおまぬけです! 

       武器を持って来るのを忘れました
 ク : 何? 武器を忘れた?
クラ ヒョクの方に戻る
 サ : 申し訳ありません!
 ク : なんという失態 護衛官が武器を忘れてどうする!


内禁衛従事官の一人
従事: サ・クラどの  武器を忘れたなら武器を持たずに立ち合わねば
 サ  : は... い?
従事: 護衛官たる者 武器がない故護衛できぬとは言えないのだ 
 サ  : はい 分かりました そういたします
 

ヒョクとクラ 向かい合って立つ 

ユルとジェユン 二人に近づく
ユル: おまぬけ (チルプニ) だ 本当に 

        そのおまぬけの相手がクォン・ヒョクではかわいそうだな
 ク  : は?
ユル: ジェユンでよい ジェユン そなたが立ち合え 
ジェ: 私ですか? 

        世子様 私だって相応に剣は使えます  ご存知でしょ?
ユル: だから、そなただ 
手に持っている剣をジェユンに渡して
ユル: これを使え
ジェ: え? この剣を
ユル: サ・クラ 手加減はするな
 サ  : 世子様 手加減など出来るはずありません


イソ 女官達と演習場に入って来る 

 

ジェユン クラ 立ち合う 

クラ ジェユンの剣を巧みにかわしながら

少しずつ間合いを詰めてゆく 一度間を取り
 サ : ジェユン様の太刀筋が読めてきた 


ジェユン 上段に構えた剣を素早く振り下ろしながら踏み込む
クラ ジェユンが踏み込むと同時にジェユンの懐に入り

両の手のひらで剣を挟み押さえる
 

一同 息を呑む
 

ジェ: 素手で剣を..
ジェユンとクラ 視線を合わせる
ジェ: あ...!
クラ 思い切りジェユンの剣を下に引いて足ではじく 

はじいた剣を取り、ジェユンに向かって構える


ユル: そこまで! 思った通りだ よいものを見せてもらった 
 サ  : ジェユン様が手加減なさいました
ジェ: 私は手加減などしていない
 サ  : 目が合った時、力を抜きました 
ジェ: そんなはずはないのだが...
ユル イソに気が付く


ユル: どうした、イソ 演習場に来るとは    
イソ: 内禁衛との演習と聞き、

        私の護衛官達が怪我でもしないかと心配になりました


   

   【ユルの執務室】     ユル  ジェユン
ジェ: サ・クラの経歴を調べるのですか 
ユル: 提出された書面だけではよく分からない 

        何年倭国にいたのか  養い親は倭人なのか、朝鮮国の者なのか
ジェ: この名前はどちらともとれますね 

    “宗昌旭” そう まさあき か ソン・チャンウクか 
       しかし、またサクラだけ、どうして?
 

   【王宮の東屋 夕刻】
ジェユン ぼんやり腰を掛けている   ヒョク 通りかかる
 ク  : ジェユン 何をぼんやりしている 

        昼間の立ち合いで気落ちしているのか?
ジェ: まさか
 ク  : では、何を考えている?
ジェ: ウーム... 突然その時だけ顔がはっきりと見えた 

        以前見た顔もはっきり思い出した
 ク  : 何を言っている? 顔がはっきり?
ジェ: あれは年若い男、少年だと思ったのだが   ... 違った
 ク  : ジェユン 私は帰るが、一緒に帰ろう
ジェ: 私はまだ仕事がある
 ク  : 今日は帰ろう 働き過ぎだ
 

   【王宮からの帰り道 桜林 夕刻】
 サ : いつ通ってもこの林は気持ちがよい 

       すっかり葉桜になって... 今日は疲れた
       家に帰ったら、瓜を食べよう
屋敷の前に来る
 サ : あら、このお屋敷 修理が始まったみたい
 

   【王宮 ユルの部屋】      ユル  イソ
イソ ユルに布包みを渡す
ユル: これは... サ・クラの?
イソ: はい 演習場に行く時、見つけたのですが

   稚拙な隠し方で.. 出来心という感じ
ユル: 捜し物の得意なそなたが言うのだから、そうなのだろう
イソ: 私が不注意でした
ユル: フム
イソ: クラとは何故か気安く話せたので

        他の者の気持ちを考えずにひいきしてしまいました
ユル: サ・クラとは気が合うのか?
イソ: そのようです
ユル: では、サ・クラはますます妬まれるであろう
イソ: 世子様?
ユル: 人はそれぞれ持っている資質や能力が違う 

        いくら妬まれてもその者にしか出来ないことがある
 

   【王宮からの帰り道 夜】      ジェユン  ヒョク
ジェユンとヒョク 商人達の一団とすれ違う 
ジェ: 随分羽振りのよさそうな商人達だな
 ク  : 妓楼に行くようだが.. どこぞの役人と会うのだろう
ジェ: 都の者だけではなさそうだ 耳慣れない訛りが聞こえた
 ク  : 近頃は地方の役人だけでなく、都の役人にも密貿易に

        関与している者がいるらしい
ジェ: 世子様にもそのような報告が

        観察使(カンチョルサ)からなされている 
        取り締まりを強化すればよいという問題でもなく、

        世子様も頭の痛いところだ
 ク  : だが、放置出来る問題ではない
ジェ: ...そうだ 放置はしない 
 

   【二日後 王宮の一室】
イソ ジェユンから明の言葉を習っている
イソ: ジェユン様はこの書物で明の言葉を覚えたのですか?
ジェ: はい つまらないですか?
イソ: そうねぇ 楽しいとは言えません 

   ジェユン様は語学の才能がおありなのね 
ジェ:「墨色男の五十の影」にしましょうか?
女官 部屋の外から   
女官 : 失礼いたします
女官 クラを連れて来る   クラ両班の衣を着て、化粧をしている
女官: イソ様 これでよろしいでしょうか? 
イソ: あら 見違えたわ こっちに来て座って
 サ : はい
クラ ぎこちなく座り書物を広げる
ジェ: サ・クラ.. クラどのも明の言葉を習うのですか?
イソ: 世子様の仰せです 一緒に習うようにと
ジェ: 世子様の...
イソ: クラ その衣、 とても似合っているわ 

        今度衣に合わせてかんざしを見てあげる
 サ  : これで十分です  髪が短いのでかんざしは挿せません
イソ: そんなこと言わずに 

        ジェユン様 お買い物をする時の言葉を教えて下さい
        それなら楽しく覚えられそうです 
ジェ: あ..ああ それはいいですね  買い物は楽しいですからね
 サ  : 値切り方も教えて下さいね
 

   【ジェユンの執務室】
ジェユン 忙しく書類に目を通しているが、ふと手を止め
ジェ: 世子様は何をお考えだ? 

        サ・クラに両班の衣を着せ、イソ様と同じようなことをさせるとは... 

        護衛官として採用した者を 

        いや、待て あの時 桜の花の下... 

        風が吹いてイソ様とサ・クラ 同時に手を延べ、 

        舞い散る桜の花びらを受け止めていた...
急に立ち上がり
ジェ: あっ! そうか!
 

   【王宮の演習場】
クラ 一人黙々と剣の稽古をしている  クネが来る
 ハ : クラさん
 サ : あら、クネさん 何か?
 ハ : 今日は非番なのでは?
 サ : はい ですが、このところ武術の稽古が出来なくて 
 ハ : そうですね   護衛官ではないようなことをさせられています
 サ : はい
 ハ : 皆がうらやんでいます 
 サ : それは分かっているのですが、世子様のご命令なのです 
ヒョク 布包みを持って二人のところに来る
 ク : クラどの
 サ : クォン・ヒョク様
 ク : 先程演習場に行くのを見かけたので 

       世子様からこれを渡すようにと預かっていました
布包みを差し出す
 サ : これは私の小太刀と手裏剣... 何故世子様が?
 ク : それは分からないのですが、クラどののものですね?
 サ : はい
 ハ : .. クォン・ヒョク様、 クラさんと立ち合ってみられては?
二人: え?
 ハ : クラさんはあの時この武器でクォン・ヒョク様と立ち合う

   おつもりだったのでしょう? 
 サ : そうですが ジェユン様に変えていただいて、ほっとしました
ヒョク 苦笑い
 

   【ユルの執務室】
ユル: 漢城大商だけでなく地方の商人も?
ジェ: 慶尚道や全羅道らしい訛りの者もいました 

        役人達もいたのかと妓楼の主人に尋ねたのですが...
ユル: 聞き出せなかったのだな
ジェ: はい
ユル: 密偵に探らせよう 

        商人達の私貿易は認めるが密貿易で私腹を肥やす者達は

        例え中央の高官であっても厳しく罰せねばならない 

       慶尚道、全羅道にいる暗行御使(アメンオサ)に連絡をとってほしい
ジェ: はい そういたします
 

ユル: ... 慶尚道と言えば、サ・クラの経歴はまだなのか? 
ジェ: 慶州の役人からは戸籍は役所で出しているので問題ないが
   養女になる前が分からないとの事 

   もう少し日にちがほしいと言ってきました
ユル: 試験の時、少しの間倭国で暮らしたと言ったが

        倭国の武術をしっかり身につけている 

        物語なども読みこなしているようだし美しい文字を書く 

        本当に商人の娘なのか?
ジェ: 世子様 そんなにサ・クラのことが気になるのですか?
ユル: まさか
ユル ジェユンをにらむ
ジェ: そんなに気になるのでしたら、

        本人に直接聞いてはいかがですか 
ユル: それはいい考えだ そなたが聞いておくように
ジェ: ま また
ユル: 演習場で「おまぬけ」と言った時、声もイソに似ていると思ったのだ
ジェ: で、イソ様の身代わりを勤めさせようとお考えになったのですね
ユル: サ・クラが承知すればの話だが
ジェ: 承知しないは死に値します
ユル: 王宮とはいつ何時、何があってもおかしくない恐ろしい所だ 

        それは私が身をもって知っている

 

   【王宮の演習場】      ヒョク  クラ  クネ
 ハ : クラさんはクォン・ヒョク様と立ち合いたくないのですか?
 サ : なんと申しましょうか... 出来れば

 ハ : 私ならお願いしてでも立ち合っていただきます
サ : え~ シブシブ ... 
ヒョク 手裏剣を興味深そうに見ながら
 ク : 棒状の手裏剣か.. 

       クラどの 今一度この武器の使い方を見せて下さい 
 サ : はい それなら (ほっ!)
クラ手裏剣を打って見せる
 ク : 直打法... 倭国独特の打ち方 

       武術は倭国で身につけたのですか? 
 サ : 武術を教えてくれたのは養父 (ちち) の知り合いです 

       倭国の人もいれば朝鮮国の人も明国の人もいました
 ク : それはまた..(どうしてだろう?)
 サ : 皆さん、とても楽しくて面白い人達でした
クラ 手裏剣を片付けながら 
 サ : クォン・ヒョク様 お願いがあるのですが
 ク : 何ですか? 私に出来ることですか?
 サ : はい 腕の良い鍛治職人を教えて下さい 

       この手裏剣を作らせたいのです 
 ク : これは倭国で作られたものですね
 サ : はい
 ク : どうだろう 同じものが出来るかどうか
 サ : 難しそうですか?
 ク : いや とりあえず私が世話になっている職人に相談してみましょう 

       ひとつお借りしてよいですか
 サ : はい
クラ ヒョクに手裏剣をひとつ渡す
 ク : 私は今日はもう帰るのですが、クラどのは?
 サ : 私は非番です
 ク : クネどのは?
 ハ : 私も帰ります
 ク : ではどうでしょう 姉に聞いたのですが

       市場の近くに菓子屋が出来たそうです  行ってみませんか?
 ハ : 私も家の者に聞きました 

       茶を出して食べさせてくれるそうです
 サ : 行ってみたい...!
三人 楽しそうに演習場を後にする
 

   【王宮 内殿から内医院に向かう所】
医女と女官三人歩いているところを、ジェユン 女官の一人を呼び止める
ジェ: サ・クラどの
医女 女官達 立ち止まる 
ジェ: あ、いや失礼いたしました
医女: クラさんにご用ですか?
ジェ: 世子様からの依頼で、尋ねたいことがあります 
医女: もう仕事は済みました お連れ下さい
 

   【王宮の東屋】
ジェユンとクラ 東屋の方に歩きながら
ジェ: イソ様はお加減でも悪いのですか? 
 サ  : いいえ 月毎の健診を受けられただけです
クラ 東屋の階段を上がろうとして衣の裾を踏む
 サ  : あっ!
ジェユン 思わずクラの腕を取り、支える 

笑いながら
ジェ: 大丈夫ですか?
 サ  : 女官の衣も両班の衣も慣れなくて お笑いになるのですね
ジェ: あ、いやこれは申し訳ない  どちらも大変お似合いです 
 サ  : 本当のことのようには聞こえません
ジェユン 立ち止まり、クラの方を向いて 
ジェ: 私は本当のことを言っています
クラ うつむく 
 サ  : ・・・
ジェ: さ、こちらに掛けて下さい
クラ うつむいたまま
 サ  : ジェユン様 声を荒げたりして、すみません
ジェ: ・・・
 サ  : 毎日違うお役目を言い付かって、混乱しています 

        世子様は私に何をお望みなのでしょう 

ジェ: クラどのはイソ様の護衛官です 

        いろいろな事をさせるのは

        イソ様の生活全てに関わり、お守りするためです
 サ  : でも、何故私だけなのでしょう 
ジェ: 周りのやっかみが気になるのですか?  お辛いですか?
 サ  : はい 少し
ジェ: 正直でよいですね  ...クラどの  私は庶子です
 サ  : ジェユン様...
ジェ: 世子様のおかげで今の地位にいますが、

        庶子の分際でと何度陰口をたたかれたか
        しかし、私は頭が切れます  能力のある男で仕事が出来ます 

        忠誠心は人一倍、心も広く、男前です
 サ  : ...はあ 

ジェ: だから他人から嫉妬されるのです
 サ  : まあ
ジェ: 志を高く持つことです 

        そうすれば他人のことは気になりません
 サ  : ジェユン様... そうですね おっしゃる通りです 

        今のお言葉、心に刻みます 
ジェ: ああ よかった 顔が明るくなった
ジェユン 眩しそうにクラの顔を見る 
ジェ: (顔が明るくなる... ことが分かる?)
 サ  : あの... 何か?
ジェ: ・・・
 サ  : あのジェユン様 私の顔に何か? 
ジェ: あ...あ、いえ何も
 サ  : あの、私に尋ねたいことがあったのでは?
ジェ: あ、そうでした
ジェユン 立ち上がって深呼吸をする 姿勢を正して
ジェ: では サ・クラどの 私の質問に心してお答え下さい 

        決して嘘はなりません
 

   【ユルの部屋】
ユル 書物を読んでいる
 

   【ユルの部屋の前】      ジェユン  ヤン内官
ヤ内: ただ今取り次ぎますのでお待ちを 

        少し前から書物を熱心に読まれておりますので
ジェ: 世子様は本当に勉強家だ 
ヤ内: いいえ 今お読みの書物は倭国の随筆だそうで 

        あの、例の、噂の女官が諺文に訳した
ジェ: 噂の女官?
ヤ内: さようでございます
ヤン内官 手招きをして、ジェユンの耳元で... コソコソコソ
ジェ: ま、全くなんという噂だ とんでもない
 

   【ユルの部屋】      ユル  ジェユン
ユル: 十歳の時に倭国に渡ったのか
ジェ: 倭国では太宰府に住んだそうです 

        養父が教育熱心だったらしく、武芸の外、書、数も習わせたそうです
ユル: 養父は商人だったな
ジェ: 養父は平戸にも家を持っていたそうです 

        時々長く留守にすることがあり、
        その度明や朝鮮国の珍しいものを持ってきたそうです
ユル: 慶尚道の役所に戸籍があるからにはこの国の者か...
ジェ: とは思いますが どうでしょう 
ユル: 慶尚道にいた時のことは?
ジェ: それがはっきりとは覚えていないらしく、

        両親が流行病で死んだので養女になったと
        暮らし向きは普通だったと言うので常人 (サンイン) と思われます
ユル: 十歳頃ならもう少し記憶はあるはずだが 
ジェ: 辛い記憶ならそれを封印することもあります
ユル: フム...
ジェユン ユルの机の書物に目を止めて
ジェ: それがサ・クラが諺文に訳した書物ですか? 
ユル: 十段まで訳してくれたのだが、後は通訳官に訳させよう 

        なかなかに面白い
ジェ: 世子様 これ以上サ・クラにお目をかけるのはお控え下さい 

   王宮にあらぬ噂が流れています
ユル: 噂?
ジェユン ユルの耳元でコソコソコソ... 
ユル: なんだって、そんな噂が...
ジェ: 人の口は誠に恐ろしいものでございます 
ユル: そんなことがイソの耳に入ったら、

        私は石臼で挽かれてしまう
 

   【王宮の東屋】
ジェユン ぼんやり腰を掛けクラとの会話を思い出している
 

   《《 サ : ジェユン様 私先程、辛いと申しましたが

                 漢陽での暮らしは気に入っております 

                 楽しいことも多いのです
        ジェ: それはよかった 
        サ  : ジェユン様は甘いものはお好きですか?
       ジェ: 特には好みませんが時々は食べたくなります 
        サ  : では近いうちに一緒に食べに行きましょう 
                昨日クォン・ヒョク様に市場の近くの菓子屋に

      連れて行ってもらいました
    ジェ: クォン・ヒョクに?
     サ  : ハ・クネさんと三人で  とてもおいしかったので  

                ジェユン様もよかったら 》》


“ふ〜ん” とため息をついて
ジェ: クォン・ヒョクは甘いものなど..  ひと口たりとも.. いや絶対に 

        全く、全然、食さないはずだが.....
 

   【ユン家の屋敷】      イソ  クラ  他二人の護衛官
 サ  : (やっぱり護衛官の衣が一番よいわ 動きやすいし)
エイ、エイと身体を動かす

イソ: クラ 王宮から出られてそんなに嬉しい?
 サ  : え? 何ですか?
他の護衛官も身体を動かす   エイ、エイ!
イソ: みんな王宮から出られて嬉しい訳?
護1: イソ様 帰りに市場の近くの菓子屋に寄ってみませんか? 
護2: とてもおいしいと評判なのです
イソ: あらあら...
 サ  : イソ様に召し上がっていただきたいのです 

        この頃お顔の色が優れません
イソ: そうかしら
と、屋敷の戸を開ける
イソ: まあ きれいになったわ
イソ 感慨深げに佇む 護衛官達跪く
イソ: 世子様はもっと手を入れたかったようだけど

   出来るだけあの頃と同じにとお願いした 
イソ 屋敷の中に入ってゆく 護衛官達 後に続く
護1: こちらは客間ですね
護2: あら、お庭が見えるのですね
イソ: ええそうね ここから見る庭も、そうこんな感じ...
クラ 周りを見渡してから内窓の近くに歩み寄る 
 サ  : (ここ、見覚えがある ここに来たことがある)
護1: お庭ももうじき出来上がるのですね
庭師 数人働いている
護2: 池をお造りになるのですか?
イソ: そのようですね... クラ?
 サ  : このあたりの壁に何か...    

        床前看月光 疑是地上霜 

        挙頭望山月 低頭思故郷 
イソ: クラ、どうかしたの? その詩が何か?
 サ  : あ、いえ そんな漢詩の書が

        この辺に掛けてあったら素敵かも...
イソ: ウッ! 変だわ 急に気持ち悪い...
イソ 座り込む   護衛官達あわてて
護1: 大丈夫ですか、イソ様
護2: お顔の色が... お召し物をゆるめます
イソ: 大丈夫、 少し気分が悪いだけだから 
 サ  : イソ様 脈をとらせていただきます
クラ イソの脈を診る
 サ  : しばらくお休みになっていて下さい 

        医官に来てもらうよう連絡をとります 
        急ぎます故、このお屋敷の馬をお借りいたします
イソ: ええ 気をつけてね
 

クラ 馬を走らせて王宮へ
 

   【王宮】     
ヤン内官 ジェユンを呼び止める
ヤ内: ジェユン様 お忙しいですか? 
ジェ: 私はいつも忙しい 世子様は人使いが荒いのです
ヤ内: お客人がお見えです こちらへ
ヤン内官 ジェユンの衣を引く
ジェ: 忙しいと言っているのに 何処に行くのですか? 
ヤン内官 とある部屋の扉を開け   
ヤ内: どうぞ
ジェユン 中に入る  部屋の中にいた男が振り返る
 

 王  : 久しぶりだな チョン・ジェユン 
ジェ: 王様.. お久しぶりでございます
 王  : まあ そんなに堅くなるな
ジェ: お忍びでいらしたのですか?
 王  : そんなところだ 政の話で来たのではない 
ジェ: では、何のご用で?
 王  : そなたに尋ねたいのはその、例の噂の女官のことだ
ジェ: あ..  (噂が飛んだ )
ジェユン 額に手を当てる
 王  : 歳の頃は? 健康そうな女人か?
ジェ: (全く!) おっしゃりたいことは分かります 

   ですが、それは全くの噂です  しかも女官ではなく護衛官です
 王  : 倭国の言葉も話し、武芸にも優れているそうではないか 

        そなた立ち合いで負けたのであろう?
ジェ: 王様... 
 王  : 世子にはまだ子がいない 若い側室なら...
ジェ: その者は若くありません
 王  : 若く... ないのか?
ジェ: 世子様と同じ歳ですから二十八歳です
 王  : に..二十..八... どうして世子は年増が好きなのだ!!
ジェ: (は~あ...)
 

   【市場の家 夕刻】
クラ 王宮から帰ってくる   使用人が三人 家の前を掃除している 

養父 家の前に立ち、クラを待っている
 サ  : おとうさん! 
養父: 桜! 元気だったか?
 サ  : はい 文をいただいてから大分経ちます  心配しました 
養父: そうか それはすまなかった 

        その衣、それが王宮の護衛官の衣か?
 サ  : はい
養父: 凛々しい姿だ 王宮での勤めは辛くないか?
 サ  : おとうさん いろいろあって.. 沢山お話があるの
養父: 分かった 分かった   中でゆっくり聞くとしよう
 

   【ジェユンの執務室 深夜】
ジェユン執務中    “カタッ...”   窓の外に音がする
ジェ: 入れ
密偵 中に入る
ジェ: どうであった?
密偵: 商人達の名簿はこちらに 

紙を渡す

密偵: 役人達の名は処理されたらしく見当たりませんでした
        何日か見張れば動きをつかめるはずです
ジェ: 分かった 続けて見張れ
密偵: はっ!
密偵 姿を消す
 

   【ユルの部屋 深夜】      ユル  ジェユン
ユル: 欲しいのは商人達の名簿ではなく役人達の名簿だ 

        癒着の元を断たねばならぬ
ジェ: はい また会合を持つと思われますので引き続き見張らせています
ユル: 暗役御使からの報告だ
書類を渡す ジェユン 書類に目を通し 
ジェ: これ程の数の商人や住民が密貿易に関わっているとは...

        大事になりますね 
ユル: 大事になる前に策を講じるのだ
 

   【翌日 朝 王宮近くの道】      ヒョク  養父  クラ
養父: クォン・ヒョク様 今日は朝早くから桜のために

        ありがとうございました
 ク  : お役に立ててよかった
 サ  : おとうさん 一人で家に帰れる?
養父: 大丈夫だ さ、早く行きなさい
 サ  : はい
 ク  : では、失礼いたします
 

ヒョクとクラ 養父と別れ王宮に向かう 

ジェユン王宮から出て来る
 ク  :ジェユン どうした? 王宮に泊まったのか?
ジェ: ああ そうだが お前達はどうしたんだ?
 ク  : イソ様がお屋敷の方にいらっしゃるので、内禁衛が護衛している
ジェ: イソ様がお屋敷に
 サ  : クォン・ヒョク様 

        私はお薬をいただきに内医院に行きます 

        朝早くから本当にありがとうございました
クラ ジェユンとヒョクに一礼して王宮に入る
ジェ: 朝早くから、何? 
 ク  : クラどのが手裏剣を作らせたいと言うので

        鍛治屋を紹介したのだ    ちょっとこっちへ
ヒョク ジェユンを物陰に引っ張ってゆく
ジェ: 何だ?
 ク  : クラどののお養父上(ちちうえ)が漢陽に来ていて、

        一緒に鍛治屋に行ったのだが... 
        お前、七日前妓楼の近くで商人達に会ったのを覚えているな
ジェ: そのことで私は今、 忙しい
 ク  : クラどのはお養父上は昨日来たと言ったのだが、

        クラどののお養父上はあの商人達の中にいた 

        間違いない
ジェ: 七日前から漢陽にいたのに娘のところには昨日来た? 
 ク  : 世子様の密偵からは何か報告はないのか?
ジェ: 商人達の名前はある程度つかんだが、

        クラどののお養父上の名はなかった
 ク  : そうか.. 安心した で、今から家に帰るのか
ジェ: とにかく着替えたい 朝餉を食したら戻って来る
 

クラ 内医院で医官より薬をもらい馬でユン家の屋敷に行く
 

   【王宮近くの道】
ジェユン 急ぎ王宮に戻るところ  男が一人、供を連れ待っている
養父: もし チョン・ジェユン様
ジェユン 立ち止まる
ジェ: (私は人の顔を覚えられない とは言え、

         この男の声や姿... 覚えがない)
養父: 護衛官のサ・クラの養父(ちち)にございます
ジェ: クラどののお養父上   (商人達の一人か) 

        これは慶尚道からわざわざいらしたのですか?
養父: 商いのため漢陽の近くに来たので寄ったのです 

        娘からいろいろとお聞きして、ご挨拶をと思いました次第です
ジェ: クラどのが?
養父: 大変お世話になっているとか  有り難く存じます
ジェ: いえ、そんなことは
養父: よろしかったら、お近づきの印に今晩一献差し上げたいのですが
ジェ: お気持ちは嬉しいのですが
養父: お断りになられるのはいけません 

        是非お耳に入れたいことがあるのです
ジェ: 分かりました  私もお聞きしたいことがあります
養父: では夕刻、 この場所に輿を差し向けます故 

        それにてお越し下さいませ
 

   【ジェユンの執務室の前 午後】 
ジェユン ユルの執務室から戻って来ると、尚宮 (サングン) が待っている 
ジェ: 尚宮、どうしたのです?
尚宮: イソ様がお部屋でお待ちにございます
ジェ: え? イソ様... お屋敷から戻られたのですか?
尚宮: 午後からは語学の予定になっております 
ジェ: これは失礼しました (まずい、忘れていた)
 

   【後宮の一室】
ジェユンと尚宮 部屋に入る 
尚宮: イソ様 ジェユン様がお見えです
几帳の陰よりクネが出て来る
 ハ  : ジェユン様 そちらで少しお待ち下さい
ジェ: あ、 こちらね
机の上の紙に目を止め
ジェ: 国破山河在 城春草木深... 杜甫ですか  こちらは李白 

        今日はこれで明の言葉を学ぶのですね
女人: はい そうです
扇で少し顔を隠した女人が几帳より出て来る
ジェ: ・・・
ジェユン 眩しそうな目をして女人を見る
 ハ  : イソ様 ペスクをお持ちいたしましょう 

        今日はお暑うございます故
女人: 西瓜などもよいのでは 
突然、 二匹の子猫が几帳の陰から飛び出し女人の足にじゃれる
女人: あら、いやだ 駄目よ ただでさえ慣れないのに 
 ハ  : これ 白 (ハク)!  龍 (ニョン)!  止めなさい!
龍 衣の飾り紐に飛びつく
女人: あっ!
扇 ポトリと落ちる
 サ  : ああ、残念 どうしてこうなるのかしら
クネ 二匹の子猫を捕まえて “こ~ら!”
 ハ  : でもよく似ておられましたよ、イソ様に 

       ジェユン様もそう思われませんか?
ジェ: ええ..まあ...
 サ  : ジェユン様は最初からお分かりだったのです 

        世子様になんと報告したらよいかしら 

        身代わり失格!
 ハ  : 大丈夫です 遠目には絶対分かりません
ジェ: あの.. イソ様は?
 ハ  : まだお屋敷におられます
ジェ: 今朝 薬がどうとか お加減が悪いのですか?
クラとクネ 顔を見合わせて “さあ...”
 

ジェユン 執務室に戻りながら
ジェ: 先刻 世子様にお会いした時は

        世子さまのご様子はいつもとお変わりなかった 

        あの二人の様子からしてもイソ様のお加減は大事ない
執務室に入る パタン
ジェ: それにしてもクラどのは美しかった 

        あのような華やかな衣もよく似合う...
額に手を当てる
ジェ: いや、それより今宵己の行く所が分からないでは困る
 

   【王宮近くの道 夕刻】
ジェユン 待っていた輿に乗る 先刻の供の者が先導する 

密偵二人 跡をつける
 

   【養父の別邸】     瀟洒な別荘風の建物
ジェユン輿より降りる
養父:お待ちしておりました どうぞこちらに
ジェ: ここは...
養父: 漢陽の外れ、静かでよい所でございます
ジェ: あ... 蛍
養父: 夏の夜は闇もよいと申します 

        今宵は闇夜にて蛍がよく飛び交います
ジェユンと養父 家の中に入る
養父: 妓楼にとも思ったのですが、ここの方が落ち着きますので 

        さ、どうぞお席に
ジェユン席につき、使用人 膳を持って来る
ジェ: ・・・
養父: お気に召しませんでしたか? 
ジェ: いえ、とんでもない  (なんと贅沢な膳)
養父: ジェユン様は私にとって大切なお客人 さ、 一献 
養父 ジェユンの盃に酒を注ぐ ジェユン盃をあける
ジェ: 倭国の酒 ... なんと口当たりのよい上等な酒
養父: この酒に合わせてつくらせました菜でございます 

        お召し上がり下さいませ 
 

ジェユン 盃を伏せる コトッ ..
養父: これはジェユン様?
ジェ: このような佳きものは心を寛がせていただきたいもの 

        不粋者と思われましょうが、 
        先ずは私の耳に入れたいことをお聞きしたい
養父: 承知いたしました
養父 使用人を下がらせる
養父: それではジェユン様が私に尋ねたいことからお聞き致しましょう 

        娘、桜のことと思いますが
ジェ: クラどのが倭国に行く前のことです 

        慶尚道の常人の生まれというのは本当のことですか?
養父: ジェユン様のお人柄を信頼し

        私の知ることは全てお話しいたします
ジェ: 是非に
養父: 桜は多分ここ漢陽で生まれていると思います 

        お父上が慶尚道のお役人になられたので、

        ご家族で慶尚道にお住まいでした 

        何年位いらしたかは存じませんが、

        十八年前、 桜が十歳の頃
        お父上から桜を倭国に連れて行ってほしいと頼まれました
ジェ: 十八年前とは政変があった年
養父: ちょうど常人の娘で流行病で死んだ者があり、

        ご両親はその者を引き取り、娘が死んだことにしたのです 

        そのことは私が手をお貸ししました
ジェ: 何故そのようなことをした? 

        役所はそれを認めたのか? 
養父: 流行病でしたので遺体の確認は行わなかったのです 

        それに桜のお父上はその頃慶尚道の

        観察使(カンチョルサ)でしたので出来たことと思います
ジェ: 観察使…. お父上のお名前は?
養父: 尹 尚中 樣
ジェ: ユン・サンジュン... クラどのが観察使の娘.. 

        クラどのの家族のその後は?
養父: 兎に角急いでほしいとお父上から言われ、 

        いやがる桜を連れ早々に倭国に渡りました 

        私が朝鮮国に戻った時はご両親の行方は分からず

        キム・チャオンの一族が政を仕切っていると聞きました

ジェ: ユン・サンジュン... 

        キム・チャオンの政敵だったのか?
養父: はっきりお聞きした訳ではありません 

        私は一介の商人ですから政のことはよくは分かりません
        ですがキム・チャオンの一族が桜にとって

        危険な存在だと感じたのです 
ジェ: (十八年前の慶尚道の観察使なら調べられるはずだ)
 

使用人が酒と水菓子を持って来る
養父: 私が呼ぶまで来ないように 
 使  : はい 申し訳ありません       
使用人退室
ジェ: クラどののこと お話しいただきかたじけない
養父: では 今度は私の話を 
養父 居住まいを正し、少し声を落として
養父: 私の話と申しますのは、

        先日漢城大商と私のような地方の商人に 

        ここ漢陽のお役人も何人かいらして会合を持ちました 
        その時身分の高い方が新しく招かれて参加されていました
ジェ: 新しく招かれた身分の高い...
養父: お役人や大商の話にはあまり乗り気ではなく、

        皆を諌めておいででした 
        私と似た見解をお持ちのようなので、

        その方にひとつ忠告をいたしたく... お伝え下さい
ジェ: どなたですか?
養父: チョン・サヨプ様
ジェ: 兄上... 兄を知っているのですか?
養父: チョン・ジェユン様の兄上ということは存じております 

        悪いことは申しません 

        早く手をお引きになるようお伝え下さいませ 
ジェユン 怪訝そうな顔で養父を見る
 

養父: 片田舎の商人ごときがと思われましょうが、

        この度の私共の企ては成功いたしません 
        戦を始める時はその戦をどのように終わらせるか 

        道筋をつけてから始めねばなりません  
        不平不満だけで始める戦は互いに何の利もありません
ジェ: 戦ですと?
養父: 倭国の守護がそのような策を巡らせています 

        サヨプ様を担ぎ出したい者達の誘いに乗ってはなりません
ジェ: このような大事をお知らせいただき感謝いたします
        兄は私が説得します 

        世子様にお知らせし、一刻も早く手を打たねば 
養父: このような事を申し上げたからには

        私の身も危ういことになります  

        急ぎ出国いたします
ジェ: 倭国に帰るのですか?
養父 微笑しながら
養父: 私には帰るという言葉はありません 

        倭国にあれば倭国の衣を着、倭国の言葉を話します 
        明国でもこの国でも同じこと 

        どこにあっても己を信じて生きるのみです
ジェ: クラどのには何と言えば? 
養父: 娘は私の不在には慣れております 

        後程文を書きます故
ジェ: ・・・
養父: チョン・ジェユン様 娘の倭名は桜、桜の花です 

        平民なので姓はありません
        朝鮮名は尹真雅 (ユン・ジア) にございます

 

 

 

          左 久良の章 その2 へ続く

 

 

 

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