《in GÖttingen》
Nadia 雨の中をホテルにかけこむ
フード付きのコートをはおり、
シンプルなセーターにパンツ
ホテルの一室をノック トントン
ガ: どうぞ
N: お久しぶりね ガイスラー
ガ: 相変わらず不用心だな
メガネのひとつもかけたらどうだ?
N: 見つかるようなヘマはしないわ
ガ: 相変わらずの自信家だ
ガイスラー 苦笑する
N: あなたがこんなことを
引き受けてくれるなんて意外だったわ
ガ: ハンブルクへ行く途中だ
たまには君の仕事に付き合うさ
しかし、君の “ムーティ少尉” だが、
どの程度の価値があるのか
N: Sachaがメンバーになっている委員会は
表向きは空軍の戦略会議
ということになっているけど
ガ:「第四帝国」か..
N: そうよ
ガ: ドイツが再び軍事大国になるとは
現時点では考えられないが
N: 戦後の人権外交と
EUの中心メンバーとしての
ドイツを考えればね
でも変わるのは一瞬よ
ガ: 堅実で理性的なはずの国民が
あれ程ナチスを支持した
ほんの70年前の話だ
N: 大国が野望を持った時、
その犠牲になるのは
常に私たちのような国よ
ガ: 確かにその委員会は
目立った活動もないのに
長期間続いている
毎年きちんと予算がつくことや
推測されるメンバーを考えると
私も気になるところだが..
君はムーティ少尉に関しては
今まで二度失敗している
三度目の失敗は許されない
N: 今回は Sachaが納得して
スロバキアに来る
そんな状況を作ったわ
多分上手くゆく 彼女の弱点は
ガ: マズア中佐か?
N: 忠誠心よ
ガ: ところでワレギエナ
ヴィート・ベネシュとの会談は報告に
あったことだけだったのか?
N: ふふ.. やっぱりそれを聞きたかったのね
ガ: それが私の仕事だ
君に会ったら避けて通れない話だ
N: 大叔父が私を呼んだのは
彼の私有財産管理についてよ
ガ: 弁護士や公証人でなく
君を呼ぶというのが腑に落ちない
N: 私もよ
彼は私が生まれた時、
母を訪ねたと言ったけど
私にとっては他人も同然の大叔父だわ
ガ: アダモフの会社の情報を渡すなら、
君はいいポジションにいる
N: ・・・
ガ: イランに流れた核関連情報については
何も聞かなかったのか?
N: 私がどう言おうと
あなたは私を信じないわ
Nadia 微笑む
ガ: 野心家の君が情報をどう使おうと
君の自由ではあるが
N: 私が自分の出世のために使うとでも?
ガイスラー あなた
私がそんなケチな人間に見えて?
《翌朝 on ⅠCE》
R ⅠCEのオープンフロアの一等車
(一列と二列の向かい合わせの席)
に乗車
R: ⅠCEはほぼ満席
ドイツ人のビジネスマンに混じって
観光客がちらほらいる
抱いているテディベアを見て
R: ぬいぐるみ抱いてるオバンてキモイかも
荷台に上げとこ
R 立ち上がり車内を見る
R: 空席は私のお向かいの席だけ...
ⅠCE フルダ、カッセル、
ヴィルヘルムスヘーエを過ぎゲッティンゲンへ
R: もうすぐゲッティンゲン
ハノーファーまであと40分
お向かいの席 誰か来るのかと
思ったけど
思い過ごしだったかな
ⅠCE ゲッティンゲン到着 後発車
車両のドアが開いてガイスラーが入って来る
R: (ドッキン!) あの人..
ブラックパンサーことペーター・ガイスラー
ガイスラー Rの前に来て止まる
ガ: 失礼
ガイスラー 席に座り新聞を読む
R: (お..お互い知らない訳じゃないし..
年下の私から挨拶をするべきかも)
あの、初めまして ガイスラーさん
ガイスラー Rを見る
ガ: 私は二年ほど前、
オーストリアのチェコ大使館で
あなたを見ましたよ
R: そ、それはどうも..
ガ: ワレギエナからこれを預かってきました
ガイスラー アンティーク生地の
小さな袋を取り出す
ガ: あなたが大切にしていたのに、
強引に借りてそのままにしていたと
Rに渡す
ガ: 確認して下さい
R 袋を開ける
R: これは.. (カルチェのリング)
ガ: 間違いありませんか?
R: はい
ガイスラー 再び新聞を読む
R: あの.. ガイスラーさん
..ということは
私は Nadiaに会えないのですか?
ガ: ベルリンに行くかどうかはあなた次第です
しかしワレギエナに会うことが
どういうことか、よく考えて下さい
私が言うのもおかしな話だが
R: よく考えました
私は Nadiaに会わなければ
会って伝えたいことがあります
ガ: そうですか
新聞に目を落とす
R: ガイスラーさんは Nadiaとは
長い付き合いなんですよね
ガイスラー Rを見る
R: Nadiaはああ見えても傷つきやすいんです
ガ: 知っていますよ
R: ガイスラーさん
Nadiaをよろしくお願いします
彼女は私ほどタフじゃないんです
ガ: ・・・
車内アナウンス ハノーファーを告げる
R: あ.. 乗り換えなきゃ
R 立ち上がり荷物とテディベアを取り、
座席に置いてコートを着る
ガイスラー テディベアを手にとり
ガ: このテディベアの話も
ワレギエナから聞きましたよ
ガイスラー テディベアをRに渡して
ガ: 今度からは大切なものは
自分の手から離さないことです
R: ガイスラーさん..
ガイスラー 立ち上がりRのBagを持ち
ガ: それがワレギエナのためでもある
RにBagを渡す
R: ありがとうございます
ガ: ムーティ少尉
あなたが納得出来る結果を
得ることを祈っています
R ⅠCE下車
ベルリン行きのⅠCに乗り換える
ⅠCの車窓から景色を見ている
R: 見渡す限り真っ平らなドイツ平原..
ほとんど牧草地
ⅠCEが満席でⅠCになったけど
ゆっくりな分、景色はよく見える
布袋を取り、中から指輪を出す
R: カルチェのリング
オスカーからの初めての
プレゼントだった
ま、いいか..
袋に入れ、Bagへ
R: あら.. 今通過した駅
ヘルムシュタットだわ
旧東ドイツの国境駅
ここからは旧東ドイツか...
赤瓦の切り妻屋根の集落
旧西ドイツとあまり変わらないわね
またまたポプラ並木..
To be continued