坂本さんから小池知事への手紙全文

 東京都都知事 小池百合子様

 突然のお手紙、失礼します。私は音楽家の坂本龍一です。神宮外苑の再開発について私の考えをお伝えしたく筆をとりました。どうかご一読ください。

 率直に言って、目の前の経済的利益のために先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません。これらの樹々はどんな人にも恩恵をもたらしますが、開発によって恩恵を得るのは一握りの富裕層にしか過ぎません。この樹々は一度失ったら二度と取り戻すことができない自然です。

 私が住むニューヨークでは、2007年、当時のブルームバーグ市長が市内に100万本の木を植えるというプロジェクトをスタートさせました。環境面や心の健康への配慮、社会正義、そして何より未来のためであるとの目標をかかげてのこと、慧眼です。NY市に追随するように、ボストンやLAなどのアメリカの大都市や中規模都市でも植林キャンペーンが進んでいます。

 いま世界はSDGsを推進していますが、神宮外苑の開発はとても持続可能なものとは言えません。持続可能であらんとするなら、これらの樹々を私たちが未来の子供達へと手渡せるよう、現在進められている神宮外苑地区再開発計画を中断し、計画を見直すべきです。

東京を「都市と自然の聖地」と位置づけ、そのゴールに向け政治主導をすることこそ、世界の称賛を得るのではないでしょうか。そして、神宮外苑を未来永劫守るためにも、むしろこの機会に神宮外苑を日本の名勝として指定していただくことを謹んでお願いしたく存じます。

 あなたのリーダーシップに期待します。

 2023年2月24日 坂本龍一












今の政策は「棄民」 安倍さんのどこが「保守」なのか

新自由主義はアメリカ人が考えだしたことで、何よりも世界中をマーケットにして、自分たちの農産物や工業製品や知的財産を自分たちのルールで売りたい、紛争も自分たちの法律で裁くぞ、というものです。自民党政権は戦後一貫してアメリカの利益代表ではあったものの、軍事面はともかく、経済面ではアメリカに抵抗してきたし、日本の農業も守ろうとしてきた。でもその縛りは2000年代にはどんどん外され、市場を明け渡すような動きが進んでしまった。安倍さんはその新自由主義路線に乗っているだけだとも言えます」

僕から見ても、安倍さんはとても『保守』とは言えない。保守的なそぶりは、トランプ大統領のメキシコ国境閉鎖発言と同じく、ジェスチャーだと思う。その本質は、アメリカ追随とネポティズムと露骨な大企業優遇です。国民はもっと怒るべきです

アメリカでは俳優やアーティスト、スポーツ選手が旗幟を鮮明にして政治的発言をするのは日常的だが、日本ではバッシングを恐れて口をつぐむ人が多い。その中で、自らリスクを引き受け、原発や安保法制、辺野古問題で真っ向から政権を批判してきた坂本さんの姿勢は際立つ。

「もっと言っていいですか? 福島の原発事故のときにも思いましたが、いまの政権がやっていることは、国民のことを考えているとは思えない、あえて強い言葉を使えば棄民政策です。しかも今回は原発事故被害者だけでなく、日本国民全体を棄民しようとしている。なぜこれを多くの人が許しているのか、僕にはまったく分からない。いまはデモは難しいですが、本来なら100万人規模で国会に押しかけたっていい話だと思います」

強権政治か民主的手法か この国は瀬戸際にいる

コロナ対策では日本も緊急事態宣言を発出し、私権が一定程度制限されたが、罰則や強制力を伴うものではない。そこで自民党などの一部から出ているのが、法律ではなく憲法に緊急事態条項を設けて対応できるようにすべきだとの声だ。安倍首相も憲法記念日の5月3日、「緊急事態において、国家や国民がどのような役割を果たし国難を乗り越えていくべきか、そのことを憲法にどのように位置づけるか、極めて重く大切な課題だ」と必要性を訴えた。

「日本は今回、欧米諸国や中国のような、強制的な措置やロックダウンをしなかった。その際に『法律がないからできません』ということを毎回、強調しています。非常にうがって考えるならば、これは、強制力がないから甘い措置しかとれない、だから憲法改正が必要なのだ、という世論をつくる地ならしの意味もあったのでは。国会のチェックを通さずに法律と同じ効果の政令を出せる緊急事態条項は、閣議決定という手段を多用し重大な法解釈まで変えてきた安倍さんが、まさにずっと目指してきたことですね」

 



坂本龍一さん
ご冥福をお祈り致します。