元総理大臣の暗殺やロシアのウクライナ侵攻な ど、“思ってもみなかった事態” が次々と現実のも のとなっている。 その対応から明らかになったの は、日本人の深刻な 「平和ボケ」 だという。 元外 務省主任分析官の佐藤優氏による新書 『危機の読 書』刊行を記念して、 慶應大学法学部教授の片山 杜秀氏と、令和ニッポンに潜む 「みえざる危機」 を語り尽くした。 

 佐藤: ロシアによるウクライナ侵攻以降、 私には 日本の危機が露わになったように思えてなりませ ん。 もともとウクライナは日本にはなじみが薄い 国でした。 ウクライナとウルグアイの違いも分か らなかった人も多かったはず。にもかかわらず、 いまや国民の大多数がウクライナに肩入れし、ロ シアを敵視するようになった。

片山:確かにウクライナをメディアが連日取り げるようになり、 誰かが発信した情報を相対化も 検証もせず 「そうなのか」 と鵜呑みにしてしまう 人が増えた気がします。 それが正しい情報ならま だいいのですが・・・・・・。

佐藤:そうなんです。

例を挙げれば切りがありませんが、マリウポリ でロシア軍が化学兵器を使用したと断言した大学 教授がいたでしょう。 でも、 実際は使っていなか ったことが明らかになってきている。 少し前に は、年内にウクライナが勝利し、ロシア軍を駆逐 すると力説した専門家もいました。 願望なのかも しれませんが、まったく根拠はありません。 ま た、ウクライナ軍は士気が高くて、ロシアは低い とさかんに語られましたが、 士気が低い軍隊が1 万1000人もの兵士を赤の広場に動員して、 パレ ードできますか?

片山:ふつうに考えれば分かりそうなものです が、ウクライナ側の大本営発表を真に受けてしま う。 日本人の体質は戦中と変わっていないように 思えますね。

佐藤: 大本営発表を素直に信じてしまう人も問題 ですが、それ以上にウクライナの専門家と自称す る解説者やコメンテーターの質は本当にひどい

本来ならメディアが検証すべきなのでしょう が、それは期待できない。 ウクライナ危機では、 珍しく朝日新聞から産経新聞までが、すべて同じ 論調でした。

片山 : それはウクライナ侵攻に限った話ではあり ません。 7月8日に安倍元首相の銃撃殺害事件が起 きましたが、翌朝の新聞一面は、 朝日から産経ま で横並びの見出しが並びましたね。 「民主主義」 への挑戦、もしくは危機をうたうものがほとんど でした。 オウム真理教による一連の事件のときの 各紙論調を彷彿とさせます。



佐藤: まったくその通りです。 そもそも政治目的 がないならテロにはならない。 民主主義への脅威 という話にどうしてなるのかが理解できません。