来月4日に開幕される北京冬季オリンピックに向けて、五輪競技会場がある河北省張家口市の気象局は24日、上空にロケット弾を発射して人工雪を作り出した。
降雨を促すヨウ化銀を詰めたロケット弾55発を雲に打ち込んだところ、1センチほどの積雪を観測したという。米紙ワシントン・ポスト24日付によると、中国当局は北京冬季オリンピックに向けてこの3か月間で約250発を発射。雲を作るための航空機12機を大会会場周辺の空港に待機させているという。
人工雪は過去の冬季五輪でも珍しくない。スポーツ・イラストレーテッド紙によるとソチ大会では8割、平昌大会でも9割が人工雪を使用したが北京大会では大半が人工雪になると予想している。中国当局は複数の貯水池からポンプで吸い上げた水をミスト化して、専用機器を使い24時間会場に降らせるという。
中国共産党は面子に関わる大型行事にあわせて、気象を操作することで知られる。清華大学の研究によると昨年6月、中国共産党結党百周年の集会の前に北京で人工雨を降らせ、大気の汚染度を軽減させた。大会期間中には雲を消して「青空」を作った。
2008年の北京夏季五輪大会期間中には、雨雲を消すロケット弾を1104発も発射したと新華社は報じている。
ワシントン・ポストは、人工降雨が中国の14億人および近隣のミャンマー、インド、ネパールの気象に影響を与えうるとして、国家主権と世界的責任をめぐり環境倫理学的な問題を引き起こす可能性があると懸念を示した。同紙は「端的に言えば、果たしてある国に天候を作る権利があるのだろうか」と疑問を呈した。
北京とスキーやスノーボードの競技会場となる張家口の近隣の山間部には雪が少ない。専門家によると雪を作るために4900万ガロン(約1億8500万リットル)の水が使われると推定され、北京のみならず広範にわたり水資源に影響をおよぼすとされている。
仏国際放送ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)中国語版は「北京五輪初の転倒、日本人選手が重傷」と題し、北京冬季五輪の人工雪問題を指摘した。
記事は、北京五輪に出場予定だったスノーボード女子の芳家里菜(22)が現地での練習で転倒し、脊椎を損傷する重傷を負ったことを紹介。同選手に麻痺(まひ)はないものの、出場は回避すると伝えた。
その上で、現地の環境について「中国で最も乾燥した地域の一つであり、ほぼ完全に人工雪に頼っている」と指摘。米スノーボード選手のジェイミー・アンダーソンが「コースの表面が非常に硬くて怖い」「ほとんどが人工雪で理想的ではない。転んではいけない」などと語ったことを伝えている。
人工雪をめぐっては過去にも柔らかさがなく選手にとって危険との指摘が出ていた。
会場では、気温や湿度に合わせ自動で造雪を最適化するシステムを採用。水は地元の貯水池からひかれ、「スノーガン」と呼ばれる人工降雪機約300基により圧縮空気と混ぜられ、空気中に放出されて雪となる。その後、「スノーキャッツ」と呼ばれるトラックのような車両で、ゲレンデなどに広げられる。
北京から約80キロ離れた延慶にある国家高山スキーセンターの職員は、現地で開かれた報道機関向けのイベントで、「雪質を均一に保つことが最大の課題だ」と説明。造雪過程のばらつきにより、「ある場所では硬すぎ、ある場所では軟らかすぎて、選手にとって危険な状態になることがある」と語った。
運営側は、造雪機は再生可能エネルギーで駆動しており、周辺の山の生態系を損なうことなく、使用した水は春の雪解けで地元の貯水池に戻ると説明している。
だが、専門家は、人工雪に頼ることは「グリーン」な大会を目指すという北京の宣言に反すると指摘する。仏ストラスブール大学のカルメン・デヨング教授(地理学)は、水が少ない地域で大量の電力と資源を使って雪をつくることは「無責任」だと非難。「それなら月や火星でも五輪を開催できる」と皮肉った。