楽天・テンセント提携の「不都合な真実」

――中国との取引を行う対象が「ヒト」や「モノ」の場合は、まだしもその行き来を制限しやすい一方、データとなるとかなり難しい。例えば日本国内に5000万人ものユーザーを抱える楽天は、中国企業のテンセントとの提携を発表しています。

改正外為法で外国人投資家や海外投資機関が日本の通信インフラなどの「コア業種」にあたる企業の株を取得する際には、割合によって事前の届け出が必要で、改正によって取得比率10%以上から1%に引き下げました。ところが楽天は「事前届け出が免除される条件」である「役員を出さない」「非公開情報にアクセスしない」をクリアしたとして、届け出を〝回避〟しました。

【平井】私はこの提携を非常に懸念しています。国家安全保障局経済班の人たちは、M&Aに関する実務のことを知らず、楽天の言い分をそのまま受け取っているのではないか、と。

楽天は「テンセントとの提携は業務提携ではなく、純投資を受けるだけだ」と言っていますね。つまり「金を出してもらうだけで、それ以上でもそれ以下でもない」と。しかし一方で楽天は、テンセントに関する発表を行った同日に、日本郵政との業務資本提携についても発表しています。

どちらのケースでも楽天は同じく「新株を出して資金調達をします」と言っています。しかし楽天は表向きには、片や日本郵政とは「業務資本提携です」と言い、片やテンセントとは「純投資です」といっている。この説明には無理があるのではないでしょうか。しかも、それぞれの内容を見比べると、「戦略的提携」と全く同じ言葉を使っています。

個人テータの管理に危機感を!

――仮に楽天がテンセントと「提携」し、情報共有がなされた場合、企業側は中国共産党の指示があれば、社が持っているすべての情報を当局に提示しなければなりません。

【平井】中国の「国家情報法」によるものです。仮に楽天・テンセントの関係が「提携」だった場合、楽天は個人情報をテンセントと共有する可能性があります。そして中国共産党・国家情報院はテンセントに対し、いつでも情報召し上げの命令を下すことができる。これによって、日本の楽天ユーザーの様々な情報が、テンセントを通じて中国当局にわたることになる。

「単なる買い物履歴のデータでしょう。要人はともかく、一般人の履歴なんて、そんなに大したことはないのでは」と考える人もいるでしょうが、膨大な個人データ、つまりビッグデータが独裁国家・中国にわたることの意味、リスクは重い。個人の趣味、興味、行動履歴が中国に筒抜けになりかねません。

また、データそのものだって非常に大きな財産ですよ。ビックデータの価値は、なんらかの政治外交工作に使えるというだけではありません。日本人の多くのユーザーはLINEの情報管理の問題に関しても軽視していますが、自分のデータを差し出すことがどれほど危険なことなのか、個々人がもう少し危機感や警戒感を持つべきです。