医系技官の存在が国民を不幸にしている--『さらば厚労省』を書いた村重直子氏(医師)に聞く

2010年09月24日
医系技官の存在が国民を不幸にしている--『さらば厚労省』を書いた村重直子氏(医師)に聞く

日米の病院で医師として経験を積み、厚労省に入省した元医系技官。国民の健康よりも自分たちの都合を優先させる、その実態に「さじを投げた」。官僚支配の「病める医療行政」に警鐘を打ち鳴らす。

--医師の資格を持つ医系技官の不要論を唱えています。

医系技官は250人ぐらい。この存在自体が必要ない。厚生労働省は、法令事務官(事務系公務員)とノンキャリアの人たちで回していける。医系技官が存在するがゆえに仕事が作られ、医療に無用な口出しをし、そして崩壊を促す。実態を知れば知るほど、存在意義のなさがわかった。

--医療行政には専門技能に長けた人が必要ではありませんか。

この集団は“ペーパードクター”であり、専門家ではない。また、終身雇用が前提になった利益集団においては、専門家にはなりえない。それが専門家であるような意見を述べて政策決定に関与する。そもそも、公務員試験を受けていない、法律の素養がない、その2点だけでも存在意義を問われる。

医系技官自身、その限界を知っているから、辞めていく人が少なくない。自分たちが苦しみ、国民も苦しめている。共に不幸になるなら制度をやめたほうがハッピーになる。

--厚労省のやるべきことは「兵站(へいたん)の確保」だ、としています。

これは医系技官がいなくてもできる。もし医療の専門家の意見が聞きたいのなら、専門家は医療の現場にいるのだから、政治任用で連れてくればいいし、いろいろな会合を活用して意見を聞けばいい。

厚労省は医療の分野でも全国一律ルールを作るやり方をする。これは、患者の状況は一人ひとり違うという医療の現場とは、そもそも合わない。しかも「罰則付きの通知行政」で事細かに医療の中身に口を出す。そこでは現場や患者の願いと大きな違いが出てきてしまう。

--内部からの改革はできないのですか。

それは構造的にありえない。自分の担当する権限の範囲内で多少のことはできるかもしれないが、この国の医療のあり方を変えるような、厚労省を変えるようなことはできない。相手は、人事権を握った大いなる運命共同体の利益集団だ。それに属しているかぎり、いつも権限拡大の方向に走ることになる。

--たとえば?

昨年の新型インフルエンザに対する行政がわかりやすい。前近代的な「水際作戦」はなぜ始まったか。現場を混乱させるばかりだった。「検疫した346万人のうち見つかった患者はわずか10人」との報告もある。かえって感染する危険を増やし、重症者に対しては死に追いやりかねない方針も打ち出した。医系技官が国民の健康よりも自分たちの都合を優先させた結果だ。

--ワクチンの量の確保、供給のスピードでも問題を残しましたね。

現場の混乱に加えて安全性も損ねることを承知で、方針を役人だけで密室で決めている。

その後もワクチン供給について護送船団方式は崩していない。国内メーカーに補助金を出し、緊急時にも国内で生産ができるという名目を打ち立てているから、輸入しない前提に向かって走っていることになる。リスクを分散させるという危機管理の観点から見て、それでいいのかどうか。