香港の抗議活動では、半年間で6000人以上が逮捕されています。そのためデモの参加者は身元が特定されないように顔を隠しています。参加者の間で進んでいるのは「デジタル断ち」という現象です。
参加者のひとりは電子マネーをやめて、現金を使う生活に戻っています。自分の居場所などの情報が残らないように気をつけているためです。
携帯が義務づけられているIDカードは、街中を歩くだけで位置情報が収集されると噂されています。そこで電波を通さない特殊なケースにいれることで、身を守ろうとしています。
スマホの使用も最低限にとどめていました。
「中国製のゲームもすべて削除しました。私のデータが中国本土に送られ、追跡されるのではないかと心配だからです」
とその心境を語ります。

香港中文大学のロクマン・ツイ准教授は、このように語っています。
「警察は裁判所の命令なしに通信会社からデータを提供させているとみています。企業が集めたデータを使って、市民を逮捕できるようになっているのです」
デモの前日、救助チームは活動拠点のホテルに入りましたが、深夜2時に異変が起きました。
取材班がリーダーの部屋にいくと、「荷物を全部まとめて、別のホテルに移動しなければなりません」と言い出したのです。
デモ隊が宿泊しているホテルが警察に把握されたという情報が入ったためでした。
メンバーのひとりは「警察はデモ隊が泊まっているホテルに押しかけ、ガスマスクの不法所持で逮捕しているそうです」と、ホテルを出る準備をしながら語りました。

メンバーが急いでホテルを出てタクシーに乗り込んだとき、ホテルに向かっていく警察の姿がありました。メンバーは「警察が追いかけてきた」といい、タクシーに回り道をして、警察をまくように伝えます。この日は、何とか振り切ることができました。
デモ当日、警察に位置情報を把握されることを警戒したチームは、スマホの使用をやめることにしました。メンバーとの連絡は個人が特定されにくいトランシーバーを使うことにします。

デモが始まると、催涙弾によるけが人が続出します。催涙弾はメンバーの足下にも着弾。メンバーは散り散りになって逃げたため離れ離れになり、トランシーバーが通じなくなってしまいました。そこでやむなく、スマホで連絡を取り合って救助を続けることになりました。
デモから数日後。リーダーは仲間たちが次々と逮捕されていたことを知らされました。 取材の最後にこんな言葉を漏らしていました。
「警察は私の行動を把握しているので、いますぐ逮捕しなくても、1年後か2年後か、いつだって逮捕できるのです」