松原照子世見 2019年7月26日(金)
戦後を映しとる写真
林忠彦の写真をご覧になった方もおられることでしょう。
昭和を代表する写真家です。
今なら小学校の2~3年生の子供が大人の表情をして煙草を吸い、側にはパンツしか穿いてない子が何かを見ている一枚の写真。
二人の男の子は裸足。足だけではなく、いつお風呂に入ったのかわからないが、誰に刈られたのか頭は丸坊主。
現在に生きる子供達に、一度は見せたくなる写真です。
煙草を吸う姿は子供に悪影響を与えると思うかもしれませんが、昭和21年とはこういう時代だったことを知って欲しいのです。
昭和21年は私が生まれた年です。
戦後の世界は、生きることがどれだけ苛酷かを多くの国民が体験していたのです。
煙草を口に運ぶ、“浮浪児”と呼ばれた子供の気持ち。現代人はどのような思いでこの写真を見るのでしょうか。
林忠彦氏の作品の中には、これほどまでの笑顔を一枚の写真に収められるだろうかと思う一枚もあります。
その中には、日頃、笑顔とは無縁に思える人もいます。
心の底から喜びを隠せない9人の復員兵が、林氏のカメラに向かい、最高の笑顔を残したのです。喜びが伝わって来ます。
生きて故国に帰れたのですもの。
リュックサックの上には、汚れた毛布が大切に巻かれて、それを宝物のように背負う復員兵。
戦争が終わると、人々には笑顔が自然に溢れるのがわかります。
引き揚げて来て、やっと着いたのが上野駅。
むしろの上で疲れきった赤子と母親が仮眠を取り、眠れぬ少女はうなだれている‥‥。そんな写真を見ていますと、この後、赤子と少女が幸せになってくれる嬉しい、そう思うだけで目の奥が熱くなり、まつ毛が濡れ始めます。
昭和、平成、令和と時代が移り、昭和が遠くなりました。