西日本を襲ったこの度の大豪雨は、死者・行方不明者が200人を超える大惨事をもたらした。人間には雲の流れを止められない以上、東京をはじめとする大都市も、豪雨被害の候補地であることからは逃れられまい。

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 事実、気象予報士の森田正光氏は、

「今後、今回のような豪雨はいつ起きてもおかしくないですし、もちろん首都圏を襲う可能性もあります。3年前の関東・東北豪雨も、線状降水帯が少し南に下がっていたら、被害を受けたのは東京だったかもしれません」

 という。今回、高知県馬路(うまじ)村に降り注いだような3日間で1091・5ミリもの雨が首都に襲い掛かってきたとしたら、どんな被害が想定されるのだろうか。

「豪雨水害には、『内水』によるものと『外水』によるものの2種類があります」

 と、災害危機管理アドバイザーの和田隆昌氏が解説する。

「簡単に言うと、空から降ってくる雨によるものが内水被害で、河川の氾濫によるものが外水被害ですが、東京都は1時間に50ミリの降水があっても対応可能な態勢を取っていて、具体的には、地下の巨大貯水池や、ポンプによって東京湾に排水するシステムなど、内水に関する対策は進んでいます。仮に1時間100ミリの雨が3、4時間続いても、インフラに全く支障は出ないはずです。問題は外水。河川の氾濫は警戒しなければならないでしょう」

3日間計500ミリの雨で…

『首都水没』の著者で、元東京都江戸川区土木部長の土屋信行氏は、

「一番危険なのは荒川です」

 と、警鐘を鳴らす。

「明治43年の水害を受け、水路を分けるために人工的に作られたのが現在の荒川で、墨田区、江戸川区、江東区といった海抜0メートル地帯が荒川沿いにあり、海抜マイナス5メートル地帯もここに集中しています」

 その荒川が、文字通り荒れる川と化した場合、最も危ないスポットがあるという。

「北区の赤羽駅周辺です。近くに荒川が流れている上に、駅周辺の地形がすり鉢状になっているため、荒川が氾濫すると、水はすり鉢の底にある赤羽駅に向かってドッと流れ込んでくる。そこに集まった水が、近くの地下鉄の駅に流れ、地下トンネルを通じて氾濫水が新橋や銀座にまで達し、インフラは壊滅状態になってしまいます。では、荒川はどれくらいの雨量で氾濫する危険性があるのか。国交省は、3日間で計500ミリの雨が降った場合に、荒川が氾濫するシミュレーションを発表しています」(和田氏)

 前記した通り、馬路村では3日間で1091・5ミリの雨が降っている。つまり、荒川を2回氾濫させてもおつりが来るほどの豪雨だったことになる。もし、西日本豪雨が首都に降り注いでいたら……。

被害総額「2兆円」

 なお、防災システム研究所の山村武彦所長は、河川の危険についてこう補足する。

「西日本豪雨では、大きな河川よりも中小の河川の氾濫が大規模な水害を招きました。東京でも、中小の河川が氾濫することによって、地下へ浸水して地下鉄がストップし、長期間運転休止になる可能性があります」

 いずれにせよ、西日本豪雨は首都機能を麻痺させる「威力」を孕(はら)んでいたと言え、その被害総額も途方もない数字になることは間違いないであろう。

 前出の和田氏はこう試算する。

「主に茨城県、栃木県、宮城県が被害を受けた3年前の関東・東北豪雨の被害総額は2896億円でした。西日本豪雨は被害地域の広さからその3〜4倍にはなるでしょう。加えて、被害の広域性によってインフラ復旧のための工期が長引き、復旧・復興にはさらなる費用が掛かることが予想されます。豪雨前の状態に戻すには、2兆円を要することになるかもしれません」

 山村氏も、

「私は今回、被災地に入って状況を確認しましたが、被害総額は昨年の九州北部豪雨の10倍くらいになると思います」

 九州北部豪雨の被害総額は2229億円。ということは、やはり2兆円超の計算になる――。