今日はこんなお話です。
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あなたとの結婚を決めたのは、年老いても一緒にいたいと思ったからでした。
いつ頃から、あなたの前で身だしなみに気を使わなくなったのでしょう。いつ頃から、あなたの立場に立つことを忘れ、あなたの疲れを考えてあげられなくなったのでしょう。子育てに追われ心の余裕をなくした私は、感謝の言葉を言わなくなり、あなたに愚痴をぶつけるのを当然だと思うようになっていました。結局は自分自身の考え方次第だとわかってはいても、悪いのは全てあなたとあなたの会社のせいにしてきました。そんな自分が腹立たしく、落ち込むという悪循環――あなたに対して謙虚の“け”の字もなくなっていたわがままな私に、あなたは実に忍耐強く付き合ってくれました。私が落ち着きを取り戻しつつあるのは、そんなあなたの存在があったからだと思います。
結婚というのは、一つの賭だと思っていました。一緒に暮らさないとわからないことが多いですから。十年生活を共にして、有り難いことに、うれしい発見の方が大きかったと感じています。あなたは精神的にバランスのとれた大人の人間であり、また家族に対しても社会に対しても、常に責任ということを考えていること――毎晩のいびきはうるさいし、足だって短いけど、あなたのまじめさはそれをさし引いても余りある素晴らしいものでした。
あなたに対して、こんな言葉をかけてあげれば喜ぶだろうとか、こういう態度で接すれば、あなたのストレスも軽くなるだろうと思いながら、私はなかなか素直になれず、それを忙しさのせいにして毎日を過ごしてきた気がします。今、自分の目の前に死があるとしたら、それは何とももったいない日々であったろうと思います。
自分にとって一番大切な人を思いやれずに、外面だけを飾っても、それは単なる自己満足にすぎないでしょう。人間を愛するには、優しさと謙虚さが必要です。何があっても家族を守ろうとしてくれるあなたは、暖かい心を持っているのだと、私は信じています。そして真の優しさは、心の強さに支えられているものだと思います。
将来どちらか寝たきりになったり、痴呆が始まったりするかもしれません。死も生も先のことはわからないけど、覚えておいて下さい。あなたは私に幸せということを教えてくれました。年をとっても元気であれば、二人で静かな時間を過ごしたい。肩を並べてゆっくりと散歩をしたい。“パパ”ではなく“譲さん”と一緒に。
中道ひかりさん 35歳 主婦
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