今日はこんなお話です。


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私は時に人の死と向き合う仕事をしています。

この話の主人公は、○さんという70代の男性と、○さんの奥さんの話です。 ○さんは、若いころは、女遊びにギャンブルにと、奥さんを泣かしていたそうです。 ○さんは癌にかかり、病院に入院しました。すでに末期の状態でした。 痛い治療に、○さんは抵抗し暴れて「帰りたい」と言うので、○さんの家族は話し合い、家で最期を迎えさせてあげる事になり、退院してきました。

痛みは薬でコントロール出来てますが、食事は喉を通らず、しんどさもあり、奥さんにはキツイ口調で接していました。

毎日○さんのお宅に伺い、点滴、薬の管理、排泄や清潔のケア、そして○さんの死への恐怖や、奥さんの不安を取る事が私達の仕事です。

○さんと毎日関わるうち、くちでは奥さんに文句ばかり言ってる○さんが、本当は謝りたい気持ちでいる事が伝わってきました。 ○さんに「奥さんに謝ってみたら?」と促してみましたが、「謝りたくても男が頭なんか下げられるか」と聞き入れてはくれませんでした。

○さんの苦しみや、奥さんの不安を取り、人生の旅立ちを少しでも安楽に迎えられるよう誠意を持って接するうち○さんは、私達を信頼してくれるようになりました。


○さんの体調は次第に悪化していきました。呼吸も苦しくなり酸素が手放せなくなりました。話をできる時間もあまりないと感じ、痛い体をマッサージしながら、「奥さんが側にいるから、伝えたい事を全部話してみて」と耳元で言ってみました。 苦しそうに呼吸をしていた○さんが、ゆっくり奥さんを見つめました。 そして○さんは、自分で酸素マスクを外しました。しばらくの沈黙のあと、○さんのくちが開きました。

「今まで


ありがとな



一番


あ い し と る」

最後はとぎれとぎれでしたが、まさに魂の言葉でした。 今まで憎まれ口しか言われなかった奥さんは、涙を流されてました。 ○さんの意識が遠のく前に、奥さんにも○さんへ言葉を伝えるよう促しました。奥さんは


「おじいさん。天国に行ったら、おじいさんを探すから安心して」


と○さんの手を握りながら言われ、二人で涙を流されていました。 夫婦にしかわからない、何十年分の悲しみも憎しみさえも流すステキな涙でした。 それから数日後、○さんは穏やかな顔で旅立たれました。

お葬式が終わり挨拶に行くと、○さんの奥さんは
「主人には泣かされました。でもあの言葉で辛い事は全部忘れました。主人と結婚してよかった・・」美しい笑顔でした。

私達はつい一番身近な人への感謝を忘れがちですが、○さん夫婦との出会いで私は感謝の大切さを改めて学びました。

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人生で最期の最期の言葉が、「愛してる。」


素敵ですね。


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