オサベ(仮名)だ、だから私はオサベ(仮名)だといってるだろ | 宇則齋志林

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トリの優雅な日常

ニュースを見ていたら、人気音楽グループBBB(トリケラベー・仮名)のリーダー村田氏(仮名)が、自分の事を知らなかった女性を平手で殴りつけたという報道がなされていた。

グウでなかったのが勿怪の幸いだが、どうしてそんな暴挙に出たのだろうか。

しかも、理由が単にむしゃくしゃしていたから、とかでなく、「自分のことを知らなかったから」というのが解せない。

ひとこと「村田(仮名)だ」と言っただけで相手がひれ伏すような、大人気で知名度影響力抜群の音楽グループだという自覚があったのだろうか。

根拠のない思い込みによる悲劇の一幕である。

だが、良かったこともある。

この暴挙のおかげで、トリはBBB(仮名)の存在を知ったのだ。

彼らが地道に音楽活動だけに専念していたら、その名を知ることさえなかっただろう。

これでどうやら、村田(仮名)に殴られる危険は回避できたようだ。

 

それで、思い出したことがある。

昔々、根菜大学(仮名)で博物館実習という授業を受けていた。

複数の授業がパッケージ化されていて、所定の単位を取ると、博物館学芸員の資格がもらえるというものだ(その後資格の活用は出来なかった)。

ある日、その担当教員の一人であるオサベ(仮名)という先生に引率されて、とある博物館へ行ったと思っていただきたい。

先生は博物館業界の中で顔が効くと思い込んでいたようで、受付のおねえさんに、いきなり、

「私はオサベ(仮名)だが」

と話しかけた。

彼の中では、

「あ、オサベ先生ですか。ご高名はかねがね。先生の御引率でしたら、皆さん無料でお入りいただけますので、こちらへどうぞ」

みたいな反応を期待していたのだろう。

ところが、受付のおねえさんはオサベなど聞いたこともないというふうで、

「はあ……」

と、浮かない顔をしているばかりだ。めんどくさいおやじに難癖をつけられたと思ったのだろう。

オサベ先生が、本当に難癖をつけ始めたのは、それからだった。

声を荒げて

「だから、私はオサベだと言っとるだろ」

と怒鳴りだしたのである。

いやしくも博物館に勤務するほどの人間なら、自分のことを知っていて当たり前だという、根拠のない思い込みによる悲劇の一幕だった。

だが、良かったこともある。

オサベ先生、以来二十年経っても、トリはあなたのことを忘れていません。


※もぐらだ。だから俺はもぐらだと言っとるだろ!