参議院議院運営委員会において、現日本銀行総裁であり、かつ次期候補者でもある黒田東彦参考人に対し質疑を行いました。国会同意人事で特に重要な案件は、本会議での採決に先立ち衆参の議院運営委員会において候補者が所信表明を行った後、質疑応答が行われます。これは日本銀行の総裁だけでなく、公正取引委員会委員長や原子力規制委員会の委員長などが対象です。

 

 

今回、割り当てられた時間は30分だったため、内容を絞って4点ほど質問しました。

最初はアベノミクスの三本の矢の1つである「成長戦略」についてです。実は、2013年に現FRB議長のパウエル氏にお会いしたことがあるのですが、その際、パウエル氏から「成長戦略」について質問されたところ、的確な説明ができず気になっていたのです。幸いなことに、今回パウエル氏の盟友である黒田総裁に質問する機会をいただけたので、黒田総裁なら中央銀行総裁としてどうお答えするのか、是非とも伺いたかったので「成長戦略」を最初の質問として取り上げました。

 

 

2つめは、賃金に対する企業の姿勢に関して質問しました。日本企業は史上空前の利益を計上していますが、それが賃金には反映されていません。その理由として、米国型の株主経営の浸透により人が資産ではなくコストと見なされだしたこと、少子高齢化により日本市場が収縮し、企業が人を必要としなくなったこと等が考えられます。日本の内部留保は400兆円を超えており、賃金引き上げの原資はあるわけですから、なぜ企業が人件費を抑えるようになったのか、これについて黒田総裁ならどう解決するのかをお尋ねしました。

3番目は、デフレマインドと2%のインフレ目標についてです。日銀は2%のインフレ目標を掲げています。政府や中央銀行は、デフレからの脱却はいまだ不完全と見なしていますが、国民目線だと別の景色が見えます。その最たる例が公共料金です。携帯電話は発売当時と比べて大幅に値下がりしましたが、水道代やガス代、保健医療サービスなどは90年代後半と比較すると10%以上値上がりしています。これで日銀が物価を2%引き上げるとなると、国民の生活はさらに厳しくなってしまいます。

 ちなみに消費税を引き上げた2014年を除くと、物価が前年比で2%を超えたのは何とバブル崩壊後の1992年まで遡らなければなりません。つまり、現在40歳以下の人たちの大半は2%のインフレを知らないわけです。したがって、インフレ率を2%ではなく1%程度にした方が目標を達成しやすいのではないか、という観点から質問を行いました。

最後は日本国債の売却、とりわけ海外勢が一斉に大量の国債を売り浴びせた場合の市場に与えるインパクトに関して質問しました。現在、大半の日本国債は国内で消化されています。中でも日銀は全体の42%を保有しています。それ以外は銀行や保険会社等が主な保有者です。しかしながら、11%程度、金額にして120兆円ですが、海外勢も日本国債を保有しています。現時点においては海外の投資家が一斉売却を行う気配は感じられませんが、日本の政府債務の対GDP比は200%以上と最悪でありますので、何かのきっかけで海外勢が国債を売り始めないとは言い切れません。もし、こうした事態が発生したら、国債市場や為替市場だけならず日本経済に与えるインパクトはどの程度のものになるのか、について黒田総裁の意見をお伺いしました。

中央銀行総裁の発言は、国債市場、株式市場や為替市場に多大な影響を与えるため、明確な回答はいただけませんでしたが、全ての質問に対し真摯な対応をしていただきました。黒田総裁には、一刻も早くデフレから完全脱却し、日本経済の本格的な回復を確実なものにしていただけるよう期待したいと思います。