自分のブログに、本の感想を上げることはほとんどありません


しかし、この発売されたばかりの本を読んで、強く感銘を受けたので書かずにはいられませんでした

それは・・・
私自身ががん経験者であること
そして
抗がん剤によって救われた身であること
さらに
マスコミの人間として、医学界の権威者を敵にまわすような本を執筆するジャーナリストがいることに強く心を動かされたからです



「がん征服」(新潮社)


がんに係わるすべての医療者が、この言葉を目標に、研究・開発・治療を行っていると言っていでしょう。

大変な力作。非常にスリリング。相当な覚悟


今の日本のがん治療薬開発について、その一端を知ることになります


タイトルから「がん治療薬の開発の努力と成果をたたえる最新ルポ」との印象を受けるでしょう


否!


確かにその取材は細かく、具体的
楽天の三木谷さんが、自分の親の

がん治療のために、新会社まで作ってがん治療薬の開発を手掛けている実態の詳細は、身を乗り出すように読み進めてしまいました


しかし、著者の下山進氏は、その努力をたたえる一方で、それとは別のがん新薬開発の「闇」に切り込んで行きます

いや、これは「闇」なのか? 
がん患者のために早く薬を開発したいと言う「熱意のオーバーラン」なのか?

日本は新薬承認があまりにも厳しく、海外に比べて新しい治療薬の開発・普及が遅れているという「ドラッグ・ラグ」が問題になっています


自分もがんサバイバーであるので、なんとかならないのか?と感じていました


しかし、政府や官僚は、「再生医療」を日本の基幹産業にしようという意図から、私たちによくわからない形で、新薬承認の“規制緩和”を行っていた事実がこの本で明らかになってゆきます

それは本当に手に汗握る証言と取材の積み重ね


しかし、その裏側をここまで書いていいのだろうか?


「有効性が証明されていない」と規制当局が判断したがんの新薬が承認され、今、保険医療となって開発者のいる病院だけで治療に使われていると言う驚き。

そして、何よりも、その告発をこれだけの1冊の本を書いて行うと言うその迫力。読みながら思う

このルポ、大丈夫か!

下山氏の覚悟にハラハラさせられる
厳しい医学会のヒエラルキーの中で、そのTOPにいる権威ある医師に鋭く疑問を発しているのです


それも、いいがかりではなく、緻密な取材によって…


難しいのでは?と感じるかもしれない。しかし、下山氏の前著「アルツハイマー征服」の時もそうでしたが、下山氏は医学の進歩を描きながら、人を描いています


だから面白い

新薬開発者たちの思いや葛藤、それぞれの思惑や研究者たちのキャラクターを掘り下げることによって見えてくるものがあるのです


そこが下山ルポの真髄


がん患者、サバイバー、その家族、特に医療関係者、さらにはノンフィクションファン必読の書だと考えます


少しハードルの高い本なのかなとも感じますので、珍しくAmazonのレビューにも投稿させていただきました


妻、茅原ますみのブログ