『昭和と師弟愛』という著書があります。

これは俳優であり、コメディアンで有名な

小松政夫さんによるものです。 


テーマは小松さんと師匠との絆です。


師匠の名は

 植木 等 


今の若い人にとっては

ピンとこないかもしれないけど、

昭和のエンタテインメントを代表する

俳優、歌手、コメディアンです。


彼の代表するのは『無責任男』

60年代にシリーズ化された大ヒット映画です。


しかし、この映画のキャラクターは

植木さんの実態とは真逆であり、

この役を引き受けることに躊躇したそうです。


この映画のイメージが強く、

喜劇役者としてのキャラがデフォルメされたのが

植木さんでした。


芸能界で活動する人は

この実像と仮想とのギャップに

葛藤することでしょう。


プライベートで声をかけて黙っていると

『無愛想』『生意氣』『鼻にかけている』と

ネットで拡散されますから。


それはともかく、

この『昭和と師匠愛』は

普段着のそして

温かく、思いやりがあり、たしなめてくれる

小松さんが『親父さん』と呼んだ

『植木 等』回想録でもあります。


内容ふんだんなこの著書のなかで、

みうらがホロリとさせられたエピソードを一つ。


植木さんが著名人とのゴルフがあったため

付き人である小松さんはラウンド中、

車をパンツ一枚になりながら洗車します。

昼を摂らず一生懸命に。





通常、付き人は適宜レストランで食事を摂り、

請求書を『主人』にまわすのですが

小松さんは念入りに洗車を続けたそうです。 


ラウンドが終わり、

「車をまわしてください」との連絡を受け

玄関口に車を寄せます。

そこには政治家、スポーツ選手などお歴々がズラリ。思わず小松さん、圧倒されたそうです。

そこで植木さんはこう言い放ちます。

「皆さん、この小松という者出来る男です。

 どうぞよろしくお願いします。」と紹介。


加えて車を見て、

「あれ?新車買ったの。ピカピカなんで」と

暗に小松さんの仕事の確かさを誉める。

これだけでも植木さんの

弟子思いの雰囲氣が伝わりますがつづきがあります。


帰りの車中、植木さんは

「請求書まわってこなかったけど

 お前、メシ食わなかったのか?」

「はい。洗車してましたので」

「そうか」

「今日、昼は軽く食べただけなので

 どっかで食べていこう。

 良さげな店があったら車を寄せてくれ」


 小松さんはそば屋を見つけます。

「そば屋でよろしいですか」

「そばか、イイね」


店に入ると小松さんは

「かけそば」を植木さんは

「カツ丼」と「天丼」を頼みます。


かけそばが先ず来ます。 

植木さん、「伸びないうちに食っちまいな」。

程なくして丼ものが来ます。




そこで植木さん、困った風情で

「あぁ、薬飲むの忘れていた。

 ちょっともたれて食べられないなぁ。

 おぉ、これ食ってくれないか」。


最初から小松さんのために注文したのですね。

恩着せがましくなく、さりげなく

『その日』の仕事に感謝をする姿

と感じさせるエピソードです。 


 小松さんは『喜劇役者・植木等』に

あこがれて付き人になったのですが

実像は全く異なり、静かで、優しく、面倒みがよく、

弟子思いの人で驚かされます。


著書からも十分植木さんの人柄が

伝わりますが、今度は

『書き文字』からお見立てをしてみます。

文字は何を語っているでしょうか。 



※植木さんの書き文字 

 出典『昭和と師弟』から


 ①立場が異なっても譲り合い、

 自分の氣持ちや行動をよく見せようとか、

 激しく感情を外に出したりしない

 振る舞いをします。

  聞き上手であり、

 話す人の氣分を上手く盛り上げます。 

 したがって揉め事を起こすことはありません。 


 ②人の過ちや欠点などを理解して受け入れる

 大きな器量で広い心を持ち、

 良いものであるば自分に取り入れます。
  


③感性が豊かで、動きは軽やか。 

 素早く、氣分よく自由自在に上手く処理する

 スマートな人。

 洗練されていて、

 物事にこだわらないあっさり派。


 セコセコせず、品格があり、

 一緒にいて時間的、物理的、精神的に

 窮屈さを感じさせない潤いがある。

 心の蓄積物が豊かで良い状態にある。 

 

この見立てが植木さんのエピソードにピタッピタッと

合うので小松さんの回想が真実であるとの傍証を得た思いです。


 何れにしても大人物の雰囲氣が伝わります。 

 そしてこのような特徴も。 


 生理的に好きになった対象に対して

 習慣的に愛着を持つ。 


 植木さんは生涯で仲人をしたのは一度だけ。

それは『小松政夫』だけだったそうです。 


習慣的に愛着を持つほど

小松さんを好きだったのかもしれません。 


小松さんもあこがれの人から求められる。 

必要とする人から必要とされる。

 

片方がピンを刺しボールを置く

片方はそれをスイングする。



相互に絶妙なタイミングで相手のためにする。


そんな

しあわせな相思相愛の師弟関係だったのでしょう。 


今回も最後までお読みいただきまして

ありがとうございました。