この資料は、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)研究主幹 山下一仁氏の論説をベースにして、編者(安江高亮)が緑小文字で補足説明を加えたものです。
山下氏は、JA農協、族議員、農水省官僚を併せて、農政トライアングル(著書「農協の大罪」)と呼んでいます。彼らが自分達の利益のために農政を歪め、農家と国民のためになっていない税金の浪費を続けていることを指摘し、早急に「減反」政策を止めることを提言し続けています。
一見「農家のため」にやっているように見えています。その上、表面上はコメが自由に買えるので、コメは自由化されていると99%の国民の皆さんは思っています。実はそれが狡猾な農政トライアングルによるプロパガンダ(自分の思う方向に誘導する行為)なのです。
そんなバカな、と思われるでしょう。ごもっともです。ですが、この論説を読んでいただければ、その理由が明らかになります。
現実は、農家の為にも国民の為にもなっていません。その証拠には、過去半世紀以上、農業界は全ての面で悪化が続いています。メガバンク「JAバンク」は誤った農政の負の遺産です。(ここまで編者)
◆ コメ不足の真実
メディア掲載 グローバルエコノミー 2025.02.18
⽇本経済新聞【⼗字路】(2025年2⽉12⽇付)に掲載
店頭からコメが消え⽶価が過去最⾼値に騰貴しても、農林⽔産省はコメ不⾜を認めない。新⽶供給後には下がると⾔った⽶価がむしろ上がると、農協の集荷量が低下して他の業者がためこみ、あるはずの21万トンが流通から消えたからだと主張している。
農協の集荷割合は⾷糧管理制度時代の95%から5割に低下している。農協の集荷量と全体の供給量とは別だ。猛暑などで昨年40万トン不⾜した。本来なら昨年10⽉から⾷べる24年産⽶を先⾷いしたため、24年産が18万トン増産されても22万トン⾜りない。消えたのではなくコメがないからだ、集荷競争が激化し農協の集荷量が減ったとみるべきだろう。
編者補足:農協の集荷量が減った原因の多くは農家が直販を広げていることが大きい。値段も自由につけられる。ですがその価格は、生産調整=減反によって、上げ底された価格の土台の上の自由化です。
農⽔省がコメ不⾜を否定するのは、備蓄⽶を放出して⽶価を下げたくないからだ。⽯破茂⾸相に早期実⾏を促されてやっと重い腰を上げたが、備蓄⽶を放出した後に買い戻すのでは供給量は増えない。しかも、放出の相⼿先は消費者に近い卸売会社ではなく、減反・⾼⽶価を進めてきた農協である。⼀部の農協は備蓄⽶放出に反対している。農協が⽶価を維持しようとすれば、備蓄⽶は放出されても流通に乗らないのではないか。
備蓄制度も、古くなった備蓄⽶を市場のコメと交換する⽅式をやめ、毎年20万トン買い⼊れ5年後にエサ⽶に処分する⽅法に変更している。
その狙いは、補助⾦で⽣産量を減少させる減反(⽣産調整)と同様、市場から隔離することで⽶価を⾼く維持することだ。これらに国⺠は毎年度、計4千億円を負担している。
編者補足:「備蓄⽶は放出されても流通に乗らないのではないか?」と疑われても仕方ありません。農協は米の手数料収入が大きいので、値上がりするほど農協は儲かる。そこに放出することは何を意味するかお解りでしょう。米価を下げたら農協に恨まれ天下りに影響するから卸売会社には出したくない。これが「農家を守る」政策の本音です。農水省官僚は国民より天下り先が大事であり、国会は与野党挙って、これを承認しています。
そもそも論ですが、昨夏、米不足と値上がりが予測できた時点で、農水省が「米の不足が生じれば、直ちに備蓄米を放出する」と宣言していれば、高騰など起こらなかった筈です。
「補助金で生産量を減少させる」の意味が解らないと思います。米を勝手に作られたら困るので、水田に食用米以外の作物、トウモロコシ、麦、大豆などを作らせますが、水田に畑作物を作るのは非常に効率が悪いので、市場価格の10倍以上になってしまいます。その価格差を補助金で埋めないと誰も作ってくれません。この金額が年間4千億円なのです。国民の負担で高い作物を作る政策は世界中にあり得ないことです。どう思われますか?
⽣産量を増やして輸出しておけば、国内の不⾜時は輸出の⼀部を振り向けるだけで今回のようなことは防げる。政府備蓄は不要になる。農家保護なら政府から1500億円ほど直接⽀払いをすればよい。国⺠・消費者を無視した⾼⽶価農政を転換すべきだ。
編者補足:これが山下氏の一番の主張。日本の米は世界の評価が高いので、余った分は輸出できるので、生産制限など必要ない。5年経過した備蓄米の処理費(毎年40~50億円)も必要なくなる。これが最善の政策である。
◆時代遅れな「減反政策」の代償
メディア掲載 グローバルエコノミー 2025.02.13
「コメが食えない日本人」が激増する週刊現代(2025年1月14日)に掲載
昨年、「令和のコメ騒動」と⾔われるコメ不⾜が起こり、テレビのニュースでは、スーパーマーケットでコメの棚が空っぽになっている光景が連⽇映し出されました。
農林⽔産省は「新⽶が出回り始めれば、コメ不⾜は落ち着く」と説明し、静観しました。実際、9⽉になると新⽶が流通し始め、スーパーの棚にコメが戻ってきた。ところがそれは、今年供給されるべきコメを去年のうちに先⾷いしたということになります。そのため、今年の夏場にはまたコメが不⾜することになるでしょう。
なぜコメ不⾜が起こったのか。気候変動による不作やインバウンド需要の増加を挙げる⼈もいますが、根本的な原因は別のところにあります。それが政府による「減反政策」です。
⽇本では'70年以降、主⾷⽤のコメ余りが問題となり、コメの作付⾯積を制限する減反政策が導⼊されました。主⾷⽤のコメから飼料⽤⽶や⻨、⼤⾖などに転作した農家に補助⾦を給付することで、コメの⽣産量を減らして、⽶価を市場で決まる⽔準より⾼く維持してきたのです。
安倍晋三元⾸相は'18年から「減反政策を廃⽌する」と主張しましたが、これはまやかしです。確かに国は農家に対する「⽣産数量⽬標」の通知はやめました。ところが、飼料⽤⽶や⻨などへの転作補助⾦はむしろ拡充したのです。
編者補足:減反=生産調整=計画経済です。共産主義国が70年間やってみて全て失敗に終わった政策です。農政トライアングルにとっては価格維持と値上げが目的です。現実には、現在の半値で米を国民に供給することが可能なのに(理由は後述)、「減反は止めたと言いながら、天下りのために闇統制をしています。闇カルテルです。
「農家は貧しい、かわいそう。だから米の値段が上がるは困るけど仕方ない」と思っていませんか?ところが実際は、1965年以降、農家所得はサラリーマン所得を2割も上回っています(総務省のデータ)。国民は騙されています。減反政策による恩恵を受けているのはごく一部の大規模農家と農政トライアングルだけです。99%の兼業農家は以前として赤字であるにも関わらず、米価の値上がりを期待させて、止めることを躊躇させているというのが現実です。

さらに農⽔省は毎年、翌年作るコメの“適正⽣産量”を決定・公表し、これに基づいてJA(農業協同組合)などが農家にコメ⽣産を指導しています。要は実質的な⽣産調整が⾏われており、実態はまったく変わっていないため、コメの⽣産量は右肩下がりになっているのです(上図)。このように⽇本のコメの⽣産量は⼈為的に低く抑え込まれていて、そこへ猛暑やインバウンドが重なり、コメが⾜りなくなったというのが、「令和のコメ騒動」の真相です。
編者補足:農水省官僚は、農協への天下りの為に、米価が下がることは絶対避けたいので、米の需要ギリギリの生産計画を立てます。すると、ほんの僅かな減収ですぐ不足を来し、昨夏のようになります。そこが彼らの狙いです。
「減反を本当に廃止したら、米が値崩れして農家が困るじゃないか、米が作れなくなったらどうするんだ!」という心配があると思います。その対策は「農業者戸別所得補償」というやり方です。米の値段を操作するのではなく、生産費に足りない分を農家に直接支給する方法です。欧米先進国では数十年前からこの方式をとっています。
コメ不⾜が起こる構造的な問題
このような不合理な政策が続けられている背景には、農業界の構造的な問題があります。コメの⽣産量が抑えられ、⽶価が⾼く維持されていれば、⼩規模で⽣産性が低い兼業農家でも稲作を続けることができます。
こうした兼業農家の多くが、兼業収⼊(サラリーマン収⼊など)や農地を宅地に転⽤した利益をJAに預けることで、JAは農業⽣産額の10倍を超える預⾦量109兆円という国内最⼤級の⾦融機関に発展しました。JAバンクの全国組織、農林中⾦はこの預⾦で巨額の運⽤益を上げ、毎年3000億円ほどをJAに還元しています。
「減反政策」を廃⽌すれば、こうした兼業農家が離農し、預⾦も引き上げられてしまう。それをJAは恐れているのです。しかもJAには農⽔省からの天下りが横⾏しており、農⽔省もJAの意向には逆らえません。
本来であればコメの⽣産量を増やして価格を下げ、余った分は海外への輸出に回すべきです。政治家がそのような提⾔をしてくれればいいのですが、彼らにもそれはできません。なぜなら農家は選挙において⼤きな票⽥になっており、⾃⺠党から共産党まで農家票がほしいからです。
結果としてしわ寄せは消費者へ⾏き、今年も「コメが⾷えない⽇本⼈」が激増しかねない事態となっているのです。
編者補足:JAバンクは、昨年1.5兆円という巨額な赤字を出しました。農政トライアングルにとって最善の策は現状維持なのです。零細農化がたくさんいてもらわなくては困るのです。国民のことなど二の次なのです。本当は、兼業農家は止めさせるのが本人の為なのに、それをしたら、会社勤めの給料の振込が無くなってしまいます。それが口座保有者の9割もいたら、JAバンクは潰れてしまうかも知れません。官僚の天下り先も無くなります。なので減反を続け米価を上げる工作を続けるのです。
山下一仁氏の論説はここまで。
<補足説明> 「現在の半値で米を国民に供給することが可能」である理由
下記農水省のグラフを見てもらえれば一目瞭然です。
平均0.5haの農家60戸が、一人の専業農家に貸すと30haになります。すると生産費が半分になります。そうなれば、専業農家は利益が出るので、地主に地代を払うことができます。すると、零細農家は赤字から開放され、国民は半値のお米が食べられ、消費量も増え、農水省も補助金を減らすことができ、国民負担が減ります。
国民、兼業農家、専業農家、国、四方良しの結果になります。米価が半値になれば、直販のメリットが減るので、農協の取扱量が復活するはずです。地方創生につながります。

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