それはどこに在るかも分からない、夢の中でしか行くことが出来ないところ。
そこで何十年、いや。
何百年ぶりに大砂嵐が来ると天気予報が言っていた。
その日、その街ではその街に住む住民全員が参加するピクニックが行われていた。
青空の下、持ち寄ったサンドウィッチやおにぎり、唐揚げや卵焼き等を皆で分け合いながら楽しく過ごしていた。
前後するがこの街では私の子供たちは既に成人しており独立している。
夫には先立たれて、何故か若い頃のままの母と暮らしている。
皆口々に『大砂嵐なんて嘘っぱち』『こんなにいい天気なのに大砂嵐なんて来るはずがない』と言う。
私ははじめこそ皆の意見に反対していたが、次第に『やっぱり大砂嵐なんて来ないだろう』と思い始めた。
小さい子供たちは草原を走り回り、キャッチボールをしたり、ジャングルジムに登っていた。
犬も気持ちよさそうに走り回っていた。
しかし、俄に空が暗くなり、黒い雲で覆われた。
『砂嵐が来るぞ!』
誰かが叫んだ。
男の声だ。
皆慌てて広げていた弁当をしまい、シートを畳んだ。
子供を呼び寄せる親もいる。
ある双子の子供を連れたお母さんがベビーカーを広げるのに苦労をしていたので私は手を貸した。
そして近くの頑丈そうな誰の家かも分からないガレージの荷物を全て出し、その親子をそこに避難させた。
ガレージは思いの外狭く、親子だけで満員だ。
私は大砂嵐から逃れる為に母の手を取り、駅に走った。
駅は大勢の住民で混雑していた。
そう、身動きが取れない程に混雑していた。
他の人に流されるように駅に停まっているオレンジ色の車輌に押し込まれた。
母も同じ車輌に押し込まれたようだが離れてしまい確認は出来ない。
駅のホームにはまだ大勢の住民がいたが無情にも扉は閉められた。
取り残された人が戸を叩く。
『開けてくれっ』『中に入れてくれっ』と叫ぶ。
だが車掌はドアを開けることはしなかった。
やがて大砂嵐がやって来た。
暴風に車輌が揺れる。
ドアや窓の隙間から砂が入ってきた。
駅のホームに取り残された人々の苦痛な呻き声と暴風の音だけしか聞こえない。
どれ程時間が経ったのか?
ようやく風が弱まり砂嵐も去って行った。
駅舎は壊滅的に壊れ、取り残された人々の中には息絶えている人もいるようだ。
車輌の中はと言うとーー。
あまりにも多くの人が詰め込まれ、息も出来ない程の混雑だ。
残念ながら圧死して人がいるようだったーー。
私もここで意識を失くした。
『あぁ。私はここで死ぬのかもしれない。あの双子連れの親子はどうなったのだろう?』
そんなことを微かな意識の中で思ったーー。
目が覚めた。
私はいつもの世界に戻ってきた。
そう、夢の中でしか行けないあの街ではなく、私の本当の居場所だ。
いや。
本当の居場所はあの街なのかもしれない。
だが、そんなことはどっちでもいい。
私はどちらの世界でも私として生きているのだから。
夢でしか行けない街が在る。
あの街に今度行けるのはいつになるのだろう。