うぐいすの宿
 
むかしむかし
あるところに旅の商人がいました。
ある日、街道を歩いているうちに日が暮れてしまいました。
野宿のできそうな場所を探していると、幸い、家の明かりが見えました。行ってみると大きなお屋敷でした。
声をかけると、老婆が出てきました。一夜の宿をこうと、老婆はこころよく承知してくれました。
そして、商人を立派な客間にとおし、うまい酒と立派なご馳走でもてなしてくれました。
老婆は
「うちは女だけの家であにかと物騒です。よろしければいつまでも泊まっていってください」
と言いました。
こうして、商人はずるずるとこの屋敷に滞在しました。飯はうまく、酒は飲み放題。おまけに、老婆の娘で美しい三姉妹がいるのですから、誰が帰る気になりましょう。
やがて、商人は三姉妹の長女と深い仲となり、屋敷の婿になりました。
 
梅の花がさきはじめたころ。
母親が
「きょうは親子で出かけてきます」
と、娘達を連れて出かけました。出かける前に母親は
「退屈になったら、庭の倉をあけてみてください。でも、二番目の倉だけは絶対にあけてはいけませんよ」
と言いました。
さて、婿はごろごろしても退屈なので、倉を開けてみることにしました。
一番目の倉をあけると、そこには、正月の風景が広がっていました。
「これはおもしろい」
三番目の倉には、春の風景が、
四番目の倉には、初夏の風景が、
といったように、倉にはそれぞれ別の季節がはいっていました。
十二番目の冬景色を見終わった婿は、母親が見てはならない、と言っていた二番目の倉を開けてみたくなりました。
「こっそりあければいいだろう」
と、二番目の倉をあけてみると、そこは紅白の梅が咲き乱れる梅林でした。しばらく見ていると、枝に四羽のうぐいすがとまっているのが見ました。
すると、うぐいすが婿のほうに飛んできました。
「あんなに見てはならないと言ったのに、約束を破りましたね。もう、これでなにもかもおしまいです」
うぐいすは、母親の声でしゃべりました。
 
婿がわれに返ると、そこには倉も屋敷もなく、ただ広い原っぱだった、ということです。