猿とひき蛙のもち競争
 
むかしむかし
年の暮れの迫ったころ。
冬ごもりをしていたひき蛙が、のそのそと這い上がってきました。なぜか目が覚めてしまったのです。
行くあてもなく山の中を歩いていると、猿にあいました。
「腹がへったな」
「ああ」
しかし、山にはもう木の実もありません。
そのうちに、人里の近くに来ました。里では、正月のためにもちをつく音があちらからもこちらかも聞こえてきます。
猿が言いました。
「なあ、ひきどん。もちを食いたくないか?」
「ああ、くいてえな」
「じゃあ、おらにいい考えがある」
ふたりは、もちをついている長者の家に行きました。
まずひき蛙が裏庭に行き、赤ん坊のような泣き声をあげ、そのまま池に飛び込みます。その音をきいて、
「たいへんだ、坊やが池に落ちた」
と、みんなもちつきを放り出して裏庭に行ってしまいました。そのすきに猿はもちの入った臼を担いで、山へと逃げました。
途中で、ひき蛙も追いついてきました。
「猿どん、うまくいったな」
「ああ、うまくいった」
猿は思いました。
(作戦を考えたのもわし。もちをもって逃げたのもわし。なのに、なんでこいつと半分こせにゃならんのだ)
しばらく考え、いいことを思いつきました。
「ひきどん。どうだろう。この臼をここから転がし、もちに手を最初につけたほうが全部食う、というのは」
ひき蛙は足が遅いので不利だと思いましたが、猿があまりにしつこいので了解してやりました。
「さあ、いくぞ!」
猿は臼を転がすと、猿は全速力で臼を追いかけました。ひき蛙はのそのそとして、まったく追いつけません。
やがて、臼は坂を転がり落ち、そのまま岩に当たって止まりました。追いついた猿は
「さあ、これでもちを独り占めだ」
と、喜んで中をのぞきこみましたが、もちがありません。
「しまった。途中でこぼれたんだ」
急いで引き返すと、もちがつつじの木に引っかかっており、それをひき蛙が食っていました。
「ひきどん、わしにもくれんかのう」
「だめだめ。先に手をつけたもんのものだ」
と、ひき蛙はうまそうにもちを食いました。猿は、ただ指をくわえて見ているしかなかった、ということです。