忠犬太郎丸
 
むかしむかし
ある山に猟師が住んでいて、一匹の猟犬を飼っていました。
「太郎丸」という名のその白犬は、大きくて力が強い上に、足も速くてどんな獲物でも逃がしません。
そのうえ頭もよく、猟師の命令によく従いました。
太郎丸のおかげで狩りはいつも順調で、獲物がたくさんとれたので、猟師は太郎丸を大切にしていました。
 
さて、ある年、猟師の女房が、ふとした風邪が原因で重い病気になり、幼い乳飲み子を残したまま死んでしまいました。
猟師は悲しみましたが、子どものためにも働かなくてはなりません。
さっそく狩りに出ようとしましたが、赤ん坊を背負っていくわけにもいきません。
そこで太郎丸に
「いいか、俺がもどってくるまで、赤子のことは頼んだぞ」
と言い残して、自分ひとりで狩りに出ました。
猟師はすぐ戻るつもりでした。
しかし、うさぎを追いかけていくうちに崖に落ち、足を挫いてしまいました。
そのため、なかなか崖をよじのぼるこおtができず、結局家に帰ることができたのは三日後のことでした。
「太郎丸、いま帰ったぞ」
すると、家から太郎丸が出てきました。猟師はその姿をみて驚きました。
なんと、太郎丸の白い口元が真っ赤に染まっているのです。
「この犬め、とうとう空腹に耐え切れず、赤子を食ったな!」
そう思い込んだ猟師は、もっていた鉄砲で太郎丸の頭を殴って殺してしまいました。
その時、家の中から赤子の泣き声がしました。
「おや、赤子は無事なのか?」
いそいで家に入ると、なんとそのには二匹の狼が喉を食い破られて死んでいました。
太郎丸は、主人の子どもを守るために命がけで戦ってくれていたのでした。
 
猟師は、それから狩りをやめ、里におりて農業をはじめました。
そして、子どもがおおきくなると、自分は出家して僧になりました。
それからずっと、自分が殺してしまった太郎丸の冥福を祈り続けた、ということです。
 
~~~~~~~
 
猫がなぜか悪者にされることが多いのにたいし、犬は大抵、良い扱いを受けます。やはり、猟犬や番犬として人間の役に立ってきたからでしょうね。