さとり
 
むかしむかし
あるところに桶屋がいました。
ある冬の寒い日のこと。
桶屋が外で仕事をしていると、一つ目で一本足の怪物が、ピョンピョン飛び跳ねてやってきました。
桶屋が
(これが、うわさに聞いた山父か)
と思うと、怪物は桶屋に向かって
「おい、おまえはいま、『これがうわさに聞いた山父か』と思っただろ」
と言いました。
桶屋が
(なんと、こいつは考えていることがわかるのか)
と思うと、山父はまた
「おい、おまえは『こいつは考えていることがわかるのか』と思っただろ」
と言いました。
桶屋は気味悪くなりましたが、別に悪さをするわけでもなさそうなので、このまま仕事を続けることにしました。
しかし、寒さで手がかじかんでいたたため、桶のたががはずれてまっすぐに伸び、山父の顔をパチン、と叩きました。
山父は
「人間とはおかしなものだ。考えてもいないことをする。おそろしや、おそろしや」
と、山へ逃げ帰っていった、ということです。
 
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さとりは、天狗など別の妖怪である場合もあります。また、「火をかき回していたらまきがはぜて」というものもあります。
今回は柳田國男『日本の昔話』を参考にしました。