心法書道の慧竹です。
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何のために書道をやっているのかわからなくなった私が、あれよあれよという間に、導かれた書道留学。不思議な先生の不思議なレッスンは、その問いに対するドストライクな答えだった。書の学び方に悩んでいる方に、読んでいただきたい体当たりの体験記です。
(文中の短歌は母が詠んでくれたものです)
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北京の中心地では一軒家に住んでいる人は少なく、マンション住まいが一般的である。空港から市内へ入るまでの高速から、日本のよりははるかに高い高層マンションをいくつも見た。何十階建てなのか、一目ではわからないものも少なくなかった。
先生もマンション住まいだと聞いていた。車を走らせ、先生宅へ向かう途中、李さんと邵さんは久しぶりに会ったせいか、ずいぶんと話がはずんでいた。それを聞き取れるわけもなく、私は車窓から垣間見れる北京の街に見入っていた。
立ち並ぶ建物は、灰色かあるいはくすんだエンジ色で、街路樹はほとんどが落葉樹のため緑がなく、妙に暗い雰囲気だった。赤や金色の文字で書かれたやけに派手な店の看板が軒を連ね、またどこもかしこも人と車であふれた異様な活気に少し圧倒されていた。
何台か追い越したバスは何年物だか想像もできないほど古く、そのバスは二台分が真ん中でつながっていた。人影で真っ黒になったバスが、重たそうに出発する。それを横目にレンガをぎっしり積んだ馬車が通る。街全体がエネルギッシュだった。
邵さんはドライバーさんにあそこで止めてと指示を出して、車は大きな通りに面したマンションの前に止まった。その建物も例外ではなくイメージしていたのとは全く違っていた。古く質素な建物に少しかたまりつつも、これから先生に会う緊張を確認しながら建物を見上げ、大きくひとつ深呼吸した。
暗い階段を上り、ドアの前に我々三人が揃うのを待って、邵さんがドアベルを押した。迎えてくれたのは奥さんだった。緊張のあまり、その時の奥さんの印象は今ではほとんど記憶にない。奥の応接室に通され、奥さんがお茶を持ってきてくれた。
さりげなく 部屋に清代の 陶器置き 使ひ熟せる 日常がある
部屋の壁には、王羲之の書を臨書した先生の作品と思われる書が何枚か飾られ、真ん中にソファとローテーブルが置かれていた。そのテーブルセットとは別に、どうにも浮いてしまっているゴールドの一人掛け用の椅子と、窓際に無造作に並べられた古い土器のようなものが気になって仕方がなかった。
ゴールドの椅子は先生のデザインしたものらしく、ローテーブルには清代の中国式ティーセットが毎日使っているままに置かれ、部屋の隅にパソコンがあったのをおぼえている。見慣れているはずのパソコンが、やけに無機質に感じられた。部屋のあちこちに、見たことのないような漢字の彫刻の置物がいくつか点在していた。
つづく
『中国書道留学記』 大西智子著 1,100円(税抜き)
在庫限りとなりますが、ご要望の方はこちらまでご連絡ください。
shinposhodo@gmail.com
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コキア