心法書道の慧竹です。

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何のために書道をやっているのかわからなくなった私が、あれよあれよという間に、導かれた書道留学。不思議な先生の不思議なレッスンは、その問いに対するドストライクな答えだった。書の学び方に悩んでいる方に、読んでいただきたい体当たりの体験記です。

(文中の短歌は母が詠んでくれたものです)

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 到着ロビーで私の名前を書いた紙を片手に、私を探してくれている李さんがいた。パスポート写真は十年前のものだっただけに、一抹の不安があったが、かつて夢を抱き日本へやってきた当時の青年の表情に、自らの目標に全力で立ち向かっている現役ビジネスマンとしての良質の野心が加わり、精悍な面立ちの李さんであった。

 留学前の十二月、これから冬本番の北京である。

 

 中国へは一度も行ったことがない私だったが、全く海外が初めてというわけでははなかった。隣国でもある中国は、長い歴史の間に日本文化の基盤となった文化を持つ国であり、何より私は、何年も書をやっていたはずだ。どんな国なのか少しも想像できなない自分が不思議だった。

 

 北京に降り立ち、まず驚いたのが空港だ。留学中に、今の新しい空港に取って代わったが、その当時はまだ発着便の掲示板が電光ではなく、パタパタと音を立てて入れ替わる旧式だった。これが大国といわれる中国の首都国際航空なのかと、私は想像していたギャップ以上のものを目の当たりにして、不安に思いながらも妙にわくわくしながら用意してくれていた車に乗り込んだ。

 

 魅せられし 墨の濃淡に似て冬枯るる 凛々として 木々のモノクロ

 

 空港から市内へのびる高速走路は、ポプラ並木が続き、すっかり枝だけになった木々と霞なのか何なのか、どんよりとした幽玄な雰囲気のためか、所々にみえる漢字の標識から受ける親近感をよそに、妙に異国情緒を感じずにはいられないまま車は市内へと向かった。

 生まれて初めて見る北京だ。

 

 李さんは気をきかせてくれて、少し遠回りになるようだったが、天安門広場の前を通ってくれた。その道路は、片側車線だけで、何車線あるのか指で追ってみないと数えられないかった。道路の広さに驚いている間もなく、次の瞬間その壮大さに息をのんだ。

 

 右手に故宮、左手に天安門広場だ。ニュースでしか見たことのなかった毛沢東の肖像画が目の前に現れた。左右きょろきょろしながら欲張って両側の窓から覗き込んだが、その光景はしばらく変わらなかった。そのだったぴろさにその時初めて、中国の首都、北京を感じだ。

 

つづく

『中国書道留学記』 大西智子著  1,100円(税抜き) 

在庫限りとなりますが、ご要望の方はこちらまでご連絡ください。

shinposhodo@gmail.com

 

 

桔梗