心法書道の慧竹です。

いつもご覧いただきありがとうございます。

 

この夏、大人クラスに入会されたRさん、私のHPを読み、書道の世界を感じたいと思ってくださった生徒さんです。

 

彼女が選んだのは、趙孟頫。

趙孟頫は、宋の宗室の出身でありながら、宋を滅ぼした元に仕えたことから一族から批判され、漢人でありながらモンゴル帝国に臣従したことで、後世の評判も芳しくない人物です。その評価は、忠臣と誉れ高い顔真卿とは対照的ですが、私の師の評価は絶大でした。

 

誰が好き好んで、自分の王室を滅ぼした者に仕えたいでしょう。彼がどんな思いで元に仕えたのか、その壮絶な葛藤は想像するに余りあります。個として生きることは許されないし、その次元で自らの人生を建設的に推し進めるなど、到底不可能な境遇といえるでしょう。

しかし彼はやってのけます。

自分ではなく、国を想ってその人生を捧げたのでしょう。結果、彼のおかげで漢民族の文化が元朝にも受け継がれ今日に至っています。

 

趙孟頫の書は現在でもたくさん残っていますが、年を経るにつれ、ぐんぐんその力量は増していきます。師に教わった印象的な逸話をご紹介します。

 

趙孟頫は王羲之の書を愛したことで有名だが、ある日彼はしばらく船旅をしなければならなくなった。しかし船ではさすがに王羲之の書を、書き学ぶことができないと思った彼は、その書を携帯し片時も離さず、日々見て学んだという。

 

留学時代、見ることがどれほど大事か、こんこんと指導を受けました。よく見ないですぐ書こうとするのは時間を無駄にするだけ、いかに詳細に見れるかが、その人物に近づけるかどうか、その後の学びに大きく影響するとのこと。

 

心法書道では、選んだその人物がどんな人だと感じるか、最初の段階でじっくり考えてもらいます。

趙孟頫 行書千字文

 

Rさんの回答

清らかで美しく、凛としている。しばらく眺めていて、最初は「こう在るべきだ」というような印象を持ったが、次第に強さを感じるようになった。強いメッセージを感じる。葛藤を抱えながらも押し込めているような、正しい道を探すような静かで強い意志を感じた。信念を貫こうとする姿にひかれる。「正しさ」や「誠意」とは何かを考えているところは自分と共通するが、彼の突き進む力強さが欲しい。

 

Rさんは筆の持ち方から始めた全くの初心者ですが、素晴らしい感性の持ち主です。

いつも驚かされますが、超能力かと思わせるこの体験は、書道のキャリアの有無、その長さなど全く関係ありません。

素直に、そして真摯に書と向き合う人には、必ず訪れる不思議な体験です。

書はとてつもなく莫大な情報量を有し、好きな書を選ぶことが、いかにそれを学ぶ人物の助けとなるか、感じていただけるとうれしいです。

 

 

趙孟頫の書は、私はその多くがどうにも仮面をかぶっているような印象がぬぐえなかったのですが、ある意味そうじゃないとやっていけない境遇だと知り納得したものです。

この行書千字文を一気に全臨したときのことは忘れられません。

へっとへと、疲労困憊(笑)

彼の自らを律する半端ない精神力を思い知らされた体験です。