インパクト強めのタイトルですが、人生で初めての映画鑑賞体験でした。話にはよく聞くのですが・・。

満を持して楽しみにしていた映画、「PERFECT DAYS」。ヴェムベンダースは僕の青春。そして役所広司主演でパルムドール賞は誰もが知るところ。映画館も混んでいました。

席に座ると、隣の中年女性がなんだか小声でボソボソと言ってました。(電話してるわけでもないし、独り言かな?)と気に留めないでいましたが、いざ本編が始まり、僕がクスッと小さく笑うと、「うるさいなぁ・・!」と囁きながらも威圧的に言うのです。最初にボソボソ言ってたのも、僕がジャケットを背もたれに置いたことが気に入らないようで、「ありえない・・」とか、「聞こえないでしょ!」とか小声で呟いてくるのでした。

ちょっとゾッとしました。変わった人、というよりも、明らかに僕に敵意剥き出しの、神経質の極みのようなオーラを感じたからです。こんな、穏やかで禅のような映画に、どうしてこんなタイプの人が来たんだろうと思いながら、まてまて、と映画に集中。マスクもしてましたから、できるだけリアクションをしないようにして(結構ユーモアのあるシーンもあるのですが)、気にしないようにしました。隣の妻が耳打ちして「あの人、歌手の人だよね」とか言うたびに、小さく舌打ちされて、ヒヤヒヤしながらも・・汗。やれやれ。

しかし、こうも思ったのです。(こんな観客がいる中で、なぜこの女性と隣同士になったんだろう・・)って。何か意味があるんだろうなって。

物語が進むたびに、僕も隣の中年女性も、映画に没頭していきました。(たぶん)。そして、ポカーンとしている妻を横目に、なぜだか僕ら二人は同じシーンで泣いているのでした。シクシクと。もはや舌打ちは聞こえません。

この回のnoteではネタバレは極力さけるとして、この映画は、トイレ清掃員の男性の繰り返しの日々の中で、些細な人と人の絆が交差されていきます。人生の新しい視点を、主人公を通して体感させてもらえます。ああ、今日も新しい日が始まると。

この映画では、主人公の視界から、スカイツリーが何度も映ります。ただそれだけなのですが、その塔は、僕ら人間にとっての、祈りの象徴のように思えました。交わることのない一人一人の世界を繋ぐシンボルのようです。

僕と舌打ち中年女性の間にも、確かな繋がりがありました。この映画を観ているという繋がりが。鑑賞後には、二人とも涙に暮れていました。彼女はフラフラと立ち上がりました。僕は、声をかけようとしました。「とても良い映画でしたね」と。睨まれたって、舌打ちされたっていいじゃないかと。
でも、控えることにしました。人と人には距離が必要です。だからこそ混じり気のないものが保たれるのではないでしょうか。まるで主人公のように。それぞれの世界の中で、少しだけ交わり、また離れていく。
変わらないからこそ、美しさが見い出せる。
彼女にとって人生とは生きづらいのかもしれないけど、頼りない足取りで会場を後にする背中を見つめながら、「また今度」、と呟いてみました。

おしまい。
また感想を書きます。