もう何年も昔のことになりますが、着物を仕立ててもらいました。
綺麗な刺繍がしてある生地で、色はこれから好みのものに染めてもらえるとか。
田舎にいる着物好きの叔母が持ってきた話でした。
すでに子供もいる身だったので、何かの式でも着れるようにと大人びた色にして、背中にひとつ紋を入れてもらい格をつけることになりました。
その時、じゃあつける紋は何にする?という話になりました。
まだ離婚していなかった時なので婚家の家紋を入れるのが一般的なのですが、実は女紋という風習があることをその時初めて聞きました。
女紋とは、家紋とは別に女だけが決めて使う紋だそうで、婚家のものでも生家のものでも、また自分で決めてもいいものなんだそうです。
私の祖母であり叔母の母に当たる人が揚羽蝶を女紋として使っていたとかで、婚家にも私の生家にも他に女紋は見つからず、結局祖母の揚羽蝶の紋を使うことにしました。
喪服の場合は家紋がどれでも「五三の桐」をよくつけるらしいのですが、女紋の場合も未婚既婚離婚を問わず使えるので便利な風習だなと思います。
家制度の中にあって、こんな風習があったのがとても不思議な感じです。
揚羽蝶の紋を使っていた母方の祖母は、自分で着物を仕立てることが出来る世代の人でした。
機織関係の仕事を長くされていた人でもあり、着物を愛していた人だと思います。
やわらかい人柄で、今でもよくその姿を思い出したり夢で見たりします。
その祖母と同じ紋をつけた刺繍の訪問着、実は仕立ててもらってから一度も袖を通したことがありません。
もうそろそろ子供さんの入学や卒業といった式があるようになります。
着付けも習いに行っていることですから、是非その着物を着ていきたいと思い、先日箪笥の整理の時に改めてその着物を見ました。
明るいグレーのグラデーションに染められて、これに金色のおめでたい帯を締めたらどんなにか綺麗だろうと思いました。
家族親戚とほぼつきあいを絶っているのに、変なところで繋がっているのだなと思ったりします。
揚羽蝶の紋は、叔母も使っている筈です。
親戚はいくら嫌い合っても血縁が切れる訳でもないし、昔し「父が嫌い」と言っても「親子の縁は切れない」とよく言われました。
それって、こういうことなのでしょうか。
不思議な「縁」ですね。