三島由紀夫「美しい星」 | 書評ブログ

三島由紀夫「美しい星」

著者: 三島 由紀夫
タイトル: 美しい星

 

 三島由紀夫がSF的な世界に挑んだ、彼の作品群の中でも異質な作品。しかし、いわゆるSFでないことが読み進めるとだんだんわかってくる。父、母、兄に妹という四人からなる家族を中心とした話であるが、彼らが異質なのは、それぞれの故郷が火星、水星、木星、金星であるということ。人間の体を持ちつつも、彼らは地球人ではなく、宇宙人なのである。一般的な家庭が、突如として自分たちが宇宙人であるということを発見したのは、「空飛ぶ円盤」を各々が目撃したことによる。一家が宇宙人であることの自覚に目覚めた日から、彼らの目的は地球人を破壊と滅亡から救うこととなった。核や水爆の恐怖から地球人を救い、全世界の平和を実現するために、父の重一郎をはじめとする宇宙思想が展開する。

 

 この話で大きな中核をなすのは、重一郎をはじめとする地球平和を救済と考える一派と地球人の滅亡を救済と考える太陽系外から来たことを主張する羽黒一派の闘争、そして妹で金星人である暁子の妊娠の話である。前者は人類の行く末を核や水爆をめぐって議論する重一朗と羽黒助教授の場面が、手に汗握る展開を見せる。これは三島由紀夫の創作ノートによると、「ドストエフスキー的会話」と書かれているそうで、解説にも『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」の場面を連想させるものであると書かれてある。

 

 妹の妊娠に関しては、金星人であるゆえに「処女懐胎」を主張するのだが、これは人間の俗世を軽視する態度を取る暁子ならではの発想であるように思われ、このあたりに実は宇宙人であることが、一家のただの空想に過ぎないという風にも読める小説としての工夫があるような気がする。重要なことは、彼らが小説の設定上、本当に宇宙人であるか否かの問題ではなく、人類のあり方をめぐって宇宙人という客観的視点からの議論によって導かれた問いかけそのものであるはずであるが、ちょうど最近ネット上でこのような記事を見ていたので、こういった精神状態に一家が陥っていたのだろうかななどと考えながら読んで、さらに楽しめた。狂気の受験戦争に疲弊した家族を描いた映画『家族ゲーム』を思い出したりもしつつ。ちなみに、この宇宙人としての視野を三島が取り入れたことが評価されるのは、解説者によれば上記の通り俗世にとらわれない超越的視点から地球人の生存と滅亡を評価することに成功している点であるようだ。