安部公房「緑色のストッキング」
読了。これは安部公房の戯曲で、新潮社から出版されている文庫には収録されていなかったはずです。というわけで、僕の大学の図書館にある安部公房全集の25巻を借りて読みました。福田和也先生の小説課題で女性の脚の描写が必要になり、安部公房の作品に「緑色のストッキング」というタイトルの作品があったなと思い出して参考にしようと借りたわけですけど、結局使いませんでした。忙しくて読んでいる暇がなかったです。で、うちの大学の図書館は返却期限である2週間を越えると、延滞料として毎日10円ずつ加算されていくんですけど、何も読まないで返却するのももったいないので大急ぎで昨日読んでみました。ちなみにこの作品は読売文学賞を受賞しています。あと新潮文庫の「R62号の発明・鉛の卵」に収録されている可能性もどうやらあるみたいです。
僕はストッキングをはいた女の脚の描写を読みたくて借りたわけですが、この作品はまったくそういった場面がないため、結局小説課題のためには参考にならなかったと思います。それにさすが安部公房の作品だけあって、予想した内容の斜め上をいくような話でしたよ。
この「緑色のストッキング」というのは、下着泥棒である主人公の男に彼の息子の婚約者がプレゼントしたものなんです。もう、この発想からして理解不能な世界が始まってますけど、主人公の男は下着を盗んで捕まるという恐怖に囚われ自殺を図ります。しかし、医者たちに助けられて命はなんとか助かります、草食人間になるための手術を受けるという条件と引き換えに。しかも仕事も何もしなくてよくて金も毎月払ってやるから、実験台になってくれと医者たちに迫られる。男は下着泥棒である罪滅ぼしのために家族へ貰ったお金を送金できることを思いつき、草食人間になるための実験を承諾します。
その後、医者たちの学会発表に向けて、男は病院で軟禁状態になりますが、金が送金されることを訝しく思った家族である男の嫁、息子そしてその婚約者が男の居場所を突き止め、彼の部屋へと侵入します。そこへ医者たちもちょうど現れ、全員が舞台上で鉢合わせることになるわけです。どうにかしてでも草食人間として男を発表して、食糧問題を解決したいと考える医者と、下着泥棒をするのも手伝ってやっていいからとにかく家に帰ろうと主張する嫁との言い争いが始まります。この間にも息子と婚約者や助手と看護婦などが、シュールな会話のやり取りをしますが、結局最後は男が草食人間となるための初めての食事を始めます。しかし、そのあまりの不気味な光景に皆戸惑い、そうこうしているうちに男がどこかへ消えてしまっていた、という終わり方をします。
もう、シュール度のかなり高い作品だと思いますけど、このわけのわからなさが最高なんですよね。しかも戯曲だからほとんど会話だけで書かれてるため、独特な臨場感がありました。安部公房の会話形式というのは、なんだか言葉遊び的なものを感じる。会話というより、物事を逆の視点から指摘するといった揚げ足取りの応酬で、迷路的なものです。設定自体が複雑怪奇なのに、会話も何を話しているかわからないという形式だから、読んでるほうとしては彼の作品を完全に理解したと断言することは不可能だと思います。
同じ病院を舞台にした夢野久作の「ドグラ・マグラ」も戦後三大奇書に数えられていて、人を混乱させる小説として知られてるけれど、安部公房の作品はああいったわからなさとは違うんですよね。というよりも、「ドグラ・マグラ」のように無理に異変に対して理由付けをしようとしないから、読んでいて突っ掛かりがなく、シュールさそのものを楽しめるわけです。まぁ、安部公房自身にとっては、どの話も彼独自の理論に基づいて書かれているのだろうから、こんな書き方したら「君は何もわかっていないな」と言われると思いますが。何で死んでしまったんだよ。
しかし、あまり安部公房を読んでいると頭がおかしくなる可能性も、
新潮文庫の安部公房は大健闘!googleキャッシュなのでお早めに。