三島由紀夫「潮騒」


- 著者: 三島 由紀夫
- タイトル: 潮騒
神島での男女のストレートすぎる恋愛を綴った話。『金閣寺』、『仮面の告白』などと比較すると、かなり文体も平易で読みやすいし、変わった出来事や特徴がある人間が出てくるわけでもない。暴力や性に関する事柄も、ほとんど出てこないことからもプラトニックを貫き通した感のある作品。三島が30歳を手前にして書き上げた作品にしては、青春臭すぎるけれど、これは解説を読んでみれば、ローマ時代の古典作品である『ダフニスとクロエ』を下敷きに、日本を舞台に焼きなおしをするという手法が、この純愛物語には試みられているとのこと。あわせて読んでみるといっそう面白いらしい。
話は海女さんに恋した漁夫の淡々とした日常を描いている。あまりに純朴で、島の住民からも、白痴であると囁かれたりする主人公の新治だけれど、肉体の逞しいさの描写とかは、いかにも三島が好む男色的なエロティズムが漂ってる。それでも新治には自我がなさ過ぎて、読んでいる側としては共感しにくいかもしれないけれど。いつも、相手に対してにっこりと笑って見せるというのが、島の好青年らしと言えばそうなんだけれど、僕なんかはある種の気持ち悪さも感じた。だけど三島は、その偽りのない主人公の姿を描くことで、清廉であるということが人間の美徳であることを表現したかったのかもしれない。