金原ひとみ「蛇にピアス」

- 著者: 金原 ひとみ
- タイトル: 蛇にピアス
読了。第130回芥川賞受賞の作品で、綿矢りささんとともにだいぶ話題になりました。ネット上にある他の人の書評を読むと、結構ボロクソ書いている人が目立ちましたけど、僕はなかなかよかったと思いました。主題であるスプリットタンや刺青に目が行き勝ちですけど、登場する人物はうまく描き分けられています。それにスプリットタンはしっかりと主人公の心理描写を語る上での重要なバロメーターとして作用しているもので、単にゲテモノ趣味で登場する類の単語ではないです。この辺りはもっと評価されてもいいのではないでしょうか?
ともあれ、この作品は村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を連想するとよく指摘されているようですけど、「蛇にピアス」の方が物語の流れはしっかりとしています。主人公のルイがアマという男のスプリットタンに引かれて、彼女もピアスを舌に付けることから話は始まります。アマの友人であるシバという男の経営する「Desire」という店で彼女は舌にピアス付けてもらい、さらには刺青まで入れてもらう。
アマのスプリットタン、刺青に憧れてルイは「Desire」で同じことをしてもらうわけですが、店主であるシバが求めたのは代金でなくて、セックスであったわけです。憧れの男のステータスを真似るために他の男に身体を許すとい箇所にせつなさを感じてもいいような気がします。ルイ自身の心理描写としてそのような内容は書かれていませんけど、実際そいう展開を見せるわけです。というのも最初ルイはアマのスプリットタンや刺青に憧れていただけであって、決して彼のことが好きなわけではなかったのです。しかし、舌にピアスを開け、スプリットタンに向けてその穴を拡張するためにゲージの大きいピアスを入れていくごとに、彼女はアマその人にだんだん引かれていくようになる。そしてアマが失踪した時になってはじめて、何故彼女がスプリットタンや刺青に固執していたかといった心理的背景が明らかになるわけです。
アマの失踪理由はこの作品の山場ですから書きませんけど、その時のルイの落ち込みようからして、もう彼女はピアスや刺青などは関係なくアマその人を求めていたことがはっきりと認識されることになります。それは結局スプリットタンにすることを最後の最後で放棄してしまった彼女の態度にも明確に見て取れます。
このように、主題として描かれているグロテスクな内容の裏にはしっかりとした人間ドラマが描かれていて、そこを読み取ってあげないと奇を衒っただけの小説だと判断することになってしまうと思います。ちなみに最後の場面で麒麟と龍の刺青に描かれていなかった瞳を入れるというのは、これからの二人の死を意味しているような気がしました。描かれていないけど無理心中とかしそうだ。