花村萬月「♂♀」

- 著者: 花村 萬月
- タイトル: ♂♀(オスメス)
花村萬月を読んだのはこれがはじめて。表題を「オスメス」と読むのは便宜上のことで、本来は「♂♀」という記号のまま読み取ってもらいたいと花村自身が言っており、そう話すだけのことはある内容であった。ひたすら性交の描写が続く作品で、出だしから45歳の作家である主人公がハーフである女沙奈と変態じみたセックスをしている。いきなり山場を読まされている気がして、後が続くのかと思ったけれど、そのままのテンションでひたすら性描写が女を変えて続く。
恒常的に性交場面が続くから、いささかつらくもなってくるけれど、主人公の内面も語られていてそれなりと奥深さも一応ある。フェチズムを持たないと考えている主人公であったけれど、ある日沙奈と合体に勤しんでいるときに啓示を受ける。「性の自由と殺人の自由が類縁関係にある」というもので、彼はこれを証明するためにカニバリズムに走る。この後に続く話は結構グロテスクで、読んでいてもちょっと気持ち悪いけれど、性交がひたすら書かれる中で趣向が変わることによって、倦怠気味な気分を解消してくれる役割を果たしていていいと思う。
あと途中で主人公が、美人OLをトカレフで撃ち殺すという妄想があるんだけれど、そのときの女に対する言葉攻めが、サディスティックなやりとりでイヤラシイ。しかもどことなく無機質で安部公房が書きそうな会話描写だと思った。
それにしても、主人公が女に対して暴君のように振舞う小説を読んだのは、これがはじめてかもしれない。安部公房の主人公は、取り巻きの変態に狼狽するような人間だし、大江健三郎の主人公もやっぱりインポ的な暗さがある。というかこんなマッチョな人間が主人公だと、普通は小説として成り立たない。スーパーマンが敵を倒すという構造のヒーロー者を期待する純文学読者は、あまりいないだろうしね。
で、なんで自分がこの小説を読んでいて楽しかったかといえば、主人公の男が女を丸め込んで性交に持っていってしまう話術というか技術に対する自負が、宮台真司の女子高生に対するそれと似ているように思えたから。「親身になって彼女たちと会話すれば、心を開く(というか脚を開く)」みたいなことを宮台は言っていた気がする。彼もこの小説に書かれているような話法でもって、女子高生を切りまくったのかな、などと思いながら技法に酔いしれて読んでいたよ。とにかく野獣系な小説だった。