村上春樹「アフターダーク」 | 書評ブログ

村上春樹「アフターダーク」

 

著者: 村上 春樹
タイトル: アフターダーク

 読了。村上春樹の最新作ですけど、もう出てから結構経ってるから読んだ人も多いと思う。前作の『海辺のカフカ』を読んでいないので、最近の彼の作品変遷がわからないけれど、僕が前回読んだ『ダンス・ダンス・ダンス』と似ている部分も多々ありました。そういえば『海辺のカフカ』はM2で宮台真司に酷評されていました。宮崎哲弥が小説をほとんど読まないで漫画ばかり読んでいるというのは驚きだけど。

 

 話は夜の12時少し前から始まり、次の日の夜明けである朝の7時までを連続的に描いていくという設定です。「ぼく」という一人称が登場せず、第三者の視点から人々の夜の営みを追っていきます。登場人物はあまり多くないけれど、いわゆる群像劇で、村上春樹もよく公言している「ドストエフスキーみたいな総合小説を描きたい」という言葉を実践するための第一歩的な作品だと思います。中篇なので実験小説にとどまる範囲ですが、次の作品はこのスタイルを生かした長編になるんだろうと予想されますね。

 

 例によってエリとマリという一字違いの姉妹が登場してきます。姉のエリは美人だけど堅苦しい生活を送ってきたせいで、自分の不在に悩み病気でもないのに2ヶ月間もの間眼を覚ますことなく眠っているという設定で、妹のマリはなかなか自由気ままな人生を歩んできたような19歳の少女です。真夜中の「デニーズ」でマリが時間つぶしのために本を読んでいると、高橋と名乗るエリと同級生であった男が登場します。この場面はエドワード・ホッパーのこの絵を連想させるもので、他のシーンですが実際に彼の名前が出てくるので、村上春樹はホッパーの絵にインスパイアされて今回の作品を書いたのかもしれません。

edward hopper

 

 その後は姉妹の一夜の生活が交互に描かれていきますが、姉が登場する場面は現実世界から少し乖離したものとして描かれています。村上春樹の作品によく登場する一人きりの危険な精神世界のようなもの。マリが高橋に最後の場面で打ち明け話をするんですけど、『ダンス・ダンス・ダンス』のようにエリベーターが登場します。地震か何かで、エレベーターの中に閉じ込められてしまった姉妹が抱き合って助けを待ったというもので、そのときに二人が溶け合って融合するような精神的統一感に包まれたというものです。この辺りは、村上作品に多く登場する対となる女性たちの役割を解くヒントとなるような気がします。つまり、本来は一つであったものを二つに分離して描くことで小説全体に厚みを持たせる効果があるのではないかと。

 あと、『ダンス・~』との類似性を他にもあげておくなら、「デニーズ」から場面が変わった後にマリの大方の行動が描かれる場所として、「アルファヴィル」というラブホテルが出てきます。

 

 というわけで今回の作品は、いつもなら「ぼく」を取り巻く登場人物たちである「姉妹」にかなりスポットが当てられたもので群像的に描かれてはいますが、他の人物たちの心の描写などがいまひとつ不十分なもので、村上春樹が目標としている総合小説には至っていないと思いました。例えば先ほどの高橋や他の登場人物である「コオロギ」という女性のバックグラウンドが語られる場面があるわけですが、かなり唐突過ぎて無理やり付け足したようなものとしか思えず、逆に浮いてしまっていたりします。伏線を張ったまま放置して物語が終わってしまった感も否めません。まあ、多人数の物語を描ききるには分量を考慮するとこれぐらいが限界だと思うので、次は『ねじまき鳥クロニクル』ぐらいの長編で、多くの人の人間模様を描いてもらいたいです。

 

 ちなみに宮台真司の『海辺のカフカ』の書評はボロクソで、そうなのかなと思わせる部分もあったので、この作品を読んだときに一緒に彼の評価についても触れられればと思います。