村上春樹「中国行きのスロウ・ボート」

- 著者: 村上 春樹
- タイトル: 中国行きのスロウ・ボート
これは村上春樹の初の短編集。83年に書かれたもので『羊をめぐる冒険』のすぐ後に書かれた作品なので、羊男とかも出てくる短編が収録されている。印象としては、後に連なる長編のための試作品的な感じもするし、息抜き的な作風でもある。
その羊男が出てくる「シドニーのグリーン・ストリート」という話だけれど、これは童話みたいな雰囲気で、文体も飾り気の全くない作品。素人が書いたものなんではないかと疑われかねない文章で、内容もかなり突飛だけれど、案外うまくまとめている。福田教授も言っていたけれど、村上春樹は現実離れした話でも、それなりに読ませてしまう辺りがプロとしての手腕なんだろうね。たまには、こういった話を読んでゆったりとした気分に浸るのもいいもんだ。
あと「ニューヨーク炭鉱の悲劇」という話は構成がかなり変わっている。雨の日に動物園に行く友人は、黒い背広と靴を持っていて、主人公は彼から葬式の日にそれらの衣服をよく借りていた。そんな彼はある日、小さなパーティーに行って人を殺したという女に出会う。最後に唐突に炭鉱に関する場面が登場して話は終わる。脈絡が全くなく、考え付いたものを並べていっただけのような作品だけれど、実際村上春樹は思いついたプロットを考えながら展開させていく手法で小説を書くらしく、大筋があって物語るわけではないらしい。この方法は失敗したら、収集がつかなくなると思うのだけれど、彼はそれで成功しているんだから色々な書き方があるもんだと感心する。だけど、この短編の場合は成功しているんだかよくわからないけど。
正直に書くと表題になっている「中国行きのスロウ・ボート」と「シドニーのグリーン・ストリート」以外は、ちょっと散漫とした印象の短編集だった。