サルトル「水いらず」
サルトルの「水いらず」を読了。これは短編集で、表題となっている「水いらず」の他に「壁」「部屋」「エロストラート」「一指導者の幼年時代」が収録されています。なぜサルトルを読んだかといえば、大江健三郎が彼から影響を受けていると言われているからです。まぁ、本人もサルトルには思い入れがあるみたいなことを言ってますけど。で、この作品集の中で面白かったのは「壁」「部屋」「エロストラート」でした。「壁」なんかはかなり大江チックな雰囲気が出ていて、読んでいて幸せでしたよ。囚人として死刑が目前に迫っている主人公と二人の男たちの話で、彼らの精神状態が異常を来たし始める様子が刻々と書かれています。それを観察するために同室に居座る医者とか、かなり設定的に嫌らし人物を登場させたものだと思いました。その嫌らしさが、いい味を出していたりするわけですけどね。なぜ彼が捕まっているかというのは、軍部の探す人間の居場所を主人公は知っていて、それを軍が聞き出そうとしているわけです。でも彼は口を割らない。その頑固さの思考の過程が、サルトルの思想につながっていると思いますけど、解説によると本当の思想はそれ以後の作品に描かれることとなったらしいです。
逆に読んでいてつらかったのは「一指導者の幼年時代」で、これはあとがきを参照すると「無限の可能性を持って生まれた人間が、ある宿命をみずから仮構することで、いわゆる大人になる、その過程を描いている略。ある意味では、これはファシズムの心理分析だと言える」作品だそうです。
この作品は心理的な飛躍のある動きの過程を描写しているせいか、文章が読みにくいわけです。訳が悪いのかなと思いましたけど、あとがきに「描写を捨てて、極度にかわいた、無愛想な、飛躍の多い文体を採用している。役者は、あえてその文体を日本語で模倣することを試みた」ということで原文もこんな感じらしいです。
「実存は本質にさきだつ」という有名な実存主義が展開されるのは、このあとの長編小説である「嘔吐」に描かれているということらしいです。「嘔吐」は持ってますけど、一回断念しているので、サルトルの参考書を読んだあとにまたトライしてみようかと思ってます。