「職業 羽生結弦の矜持」を見ました。
驚きました。
「GIFT」や「RE_PRAY」で恐ろしいほどの体力を見せてくれたその裏で、ここまで激しい練習をしていたとは…。
いやもちろん、現役の時よりかなり体力増強してきているのは知っていましたが、それでもここまでハードな練習をしていたということに、何か鬼気迫るものを感じてしまいました。
現役スケーターの方々はこの番組を見たんでしょうか。
いや、見たのかではなく、全員見るべきだと思いました。
見たうえで、自分達の練習との違いを比べて使えそうなものは全て取り入れるべきだと思います。
そのくらいフィギュアスケーターとして、いやアスリートとして大切なことを、惜しげもなく見せていてくれていたと思います。
あの姿を見もせず、または見ても何も感じていない選手がいたとしたら、その人達は絶対に結弦くんの到達した高みに辿り着くことはできないだろうと確信を持って言うことが出来ます。
メダルの色とか点数ではなく、羽生結弦がなぜ今あの位置にいるのか、なぜあれほど多くの人間の心を震わすことが出来るのかを理解するには、まずあの練習風景を見るところから始まるのではないでしょうか。
あの練習風景を見て「ちょっとオーバーワーク過ぎないか?」と心配するファンもいるようですが、そこは心配ないと思います。
体調などを数値化して「今日は普通」と言っていましたよね?
3が普通ということは5段階評価なんだと思いますが(笑)体調が2や1の時は少しセーブをしているんじゃないでしょうか。
私も結弦くんのファンになって少しアスリートのピーク管理というものが分かってきましたが、ああやって数値化してそれをグラフにすることで、その人間の体調の波を知ることが出来るようになるわけです。
そのうえでピークが下がっている時は無理な練習をしないという判断ができるようになるわけです。
カナダにいた時から、ピークを上げていくときは泣くほどきつい練習をしてきたと結弦くんは言っていましたよね?
つまり一年中同じボリュームの練習をしていたら怪我をするので、体調を数値化してベストな時に一番きつい練習をして、下がっている時は少し緩めるという管理をしているんじゃないでしょうか。
これは体操の内村くんもやっていたことなのですが、少しずつグラフの波を調整していって、試合の時にピークが来るように持って行くのがピーキングなので、今の結弦くんはアイスショーの時にピークが来るように管理をしているんじゃないかと思います。
そういったピーク管理はオーサーが上手かったと結弦くんは以前言っていたと思いますが、一発勝負のスポーツはこのピーク管理がとっても大事です。
ダメな時は3Aすら跳べなくなるそうなので、そういう時は無理して練習しても意味ないし、風邪や花粉で体調が落ちている時も無理は怪我に繋がります。
結弦くんのあのメモを見ると、そういったことはきちんと理解したうえでスケジュール管理をしているようですし、人間工学というかスポーツ理論も熟知していますから、結弦くんはコーチとトレーナーがやるようなことを一人で考え実行できているんです。
なので、結弦くんのやっていることに外部の人間が心配するようなことは一切ありません。
一流のコーチ、一流のトレーナー、そして「きつくなった時にあえてポジティブなことを言う」なんて、一流のメンタルトレーナーもついているようなものです。
もう、何も心配することはありません。
ただただ、結弦くんがどんなことを考え何を見せてくれようとしてるのか、それを楽しみにしているだけです。
結弦くんは現役の試合などの緊張感がなくなることで、そういった「一緒に戦う」といった緊張感が好きだった人が離れていくことを心配していたようです。
もちろんそういった、ハラハラしてバクバクしてヒリヒリする緊張感が好きだからアスリートを応援しているという人も多いと思います。
それはフィギュアに限りません。
強い選手やチームを応援することで自分も強くなったような気になれるので、どんなスポーツでもそういったファンは一定数います。
野球やサッカーでもそうですが、優勝が近くなってくると突然ファンが増えて、買ったばかりのユニフォームを着たファンたちでスタジアムがいっぱいになったりするんです。
突然、自分が応援しているチームがどれほど強いかを、滔々として語りだしたりするんです。
そういった人たちは強いから応援するんであって、そのチームが弱くなると他の競技に乗り換えたりする人たちです。
そういった人たちは一定数いますし、それは勝ち負けが好きな人たちなので試合がなくなると離れてしまうのは仕方ありません。
そういった「他の選手が勝てない強い羽生結弦」という姿を追い求めていた人たちは、結弦くんのプロ進出と共に若手スケーターに移るのかもしれませんし、バレーボールなどの他競技に移るのかもしれません。
でも、私をはじめ多くのファンは、結弦くんが成してきたことやこれから成そうとしていることに惹かれて応援しているので、プロになってもスタンスは変わりません。
結弦くんが過去に残してきたことが消されることはないし、そのつど感じてきた感動は私達の宝物だし、これからもまだ結弦くんが何かをやろうとするならそれも楽しみでしかないんです。
少なくても、プロ1年目でここまで凄いものを見せてもらえるとは私は思ってもいませんでした。
「プロローグ」を見た時は、1人というハンデをトークやバングルでのコミュニケーションでカバーしつつ、上手いこと演出したなぁという印象だったんですが、「GIFT」や「RE_PRAY」では完全に一人で10プロ以上滑り切るという超人的な演技を見せてくれましたからね。
本当に、私は「プロローグ」でも凄いと思ったのに、まさか1年後にはもう「RE_PRAY」のようなアイスショーが見られるなんて思ってもいなかったんです。
その体力を身につけるためあれだけ激しい練習をしているわけですよ。
それもショーのシミュレーションをしながら、全てを数値化してデータを取りながら、たった一人でね。
そのクレバーさや行動力に「羽生結弦という人物はここまで凄かったんだ」と、むしろ自分の考えの甘さを痛感しているところです。
あの練習風景を見て現役選手はビビんないんですかね。
絶対に、今いるどの現役選手より、綺麗で正確で確率の高い4回転を跳んでいますよ。
たぶん、今結弦くんが現役復帰したとしても勝てる選手はいませんよ。
あのボリュームであの密度のスケジュールをこなせている今、4分やそこらのプログラムでは揺らぐことすらないってことです。
そんなんでいいのか?現役、と言いたいですよね。
あそこを目指さなくていいのか?あれと同じ密度で練習できる?ってね。
結弦くんの最後の全日本になった21年、私は運よくSP、FS共にチケットが取れたんですよね。
そこで見た「ロンカプ」の衝撃と4A挑戦の興奮は、私の中の宝物です。
私は、結弦くんのファンになる前は特にフィギュアのファンだったわけじゃありません。
ただ、やっていれば見るという程度で、日本人だから応援するという感情もなく、とにかく美しい演技が好きという人間でした。
男子は女子に比べると美しくないので特に見ようとは思っていませんでした。
たまに男子をやっていても、ジャンプ前の助走の長さや着氷の硬さ、スピンのきつそうなポジションの不格好さなど、女子に比べて見るべきものが少なく、トップ選手を数人知っている程度の知識しかありませんでした。
そういった先入観をひっくり返してくれたのが結弦くんです。
表現に溶け込んだジャンプ。
女子並みに柔軟性のあるスピン。
その柔軟性を生かしたコレオ。
こんなに、力強くも美しい、男子と女子のいいとこどりをした選手は他にいません。
そして結弦くんはまだ歩みを止めていません。
昔から私は「記録より記憶に残る選手になりたい」という言葉が好きじゃありませんでした。
記録に残っていなくて記憶に残っている選手って、誰ですか?
たとえば日本国内の選手の名前を上げることが出来たとして、その選手は海外の人に知られていますか?
結局は記録を残せない人間の逃げでしかないと、私はずいぶん前から書いてきました。
同じ様に、「ジャンプより表現力」という言葉も嫌いです。
これはジャンプに限界が来た選手の逃げ口上です。
選手である以上「記録にも記憶にも残る選手になりたい」と言うべきだし「表現に溶け込むジャンプを跳びたい」と言うべきなんです。
どちらかを手放す時点でそこにあるのは「諦め」であり、一度諦めたら後はズルズル落ちていくだけです。
結弦くんはプロになってもまだ、貪欲に上を見ています。
何人ものスケーターを呼んでエキシビタイプのショーをやるのではなく、自分が頭の中に思い描いていたビジョンを氷の上に描き出すため、身を削って単独で氷上芸術を作り上げています。
全てにおいて「フィギュアスケーター」という規格にはハマらないスケーターです。
結婚報道でリアコのファンが離脱したとも言われていますが、その穴を埋めて余りあるくらい、ゲームファンやダンサーさん達が結弦くんのショーにやってきています。
大丈夫です。
一生懸命な表現は、必ず人の心を掴むんです。
しかし、深刻で辛い話をしていても、結弦くんはどこかスコンと軽いところがあって(笑)
北京のことを「踏んだり蹴ったり過ぎて」と表現したのはちょっと笑ってしまいました。
確かに、穴にハマったり捻挫しちゃったり、踏んだり蹴ったりでしたね。
普通の人ならもっと深刻になってもいいと思うんですが、もうあれもまた「踏んだり蹴ったり」で乗り越えたんでしょう。
辛い時こそ「楽しい、楽しい」と言うのは脳を誤魔化すテクニックですね(笑)
私も結弦くんを見習って、寒いから散歩に行きたくないなんて言わず(笑)「天気いい!楽しい!嬉しい!」と言いながら体力増強に努めたいと思います。
佐賀と横浜。
まだまだ残っていますからね。
以上