ラジオノワが引退しました。

21歳はまだまだやれる年齢だと思いますが、ロシアではもう難しい年齢だったのだなと思います。

本当にロシアは厳しいです。




少し前、ロシアっ子達の移籍問題で色々騒ぐ人達がいました。

以前から書いていることですが、コーチと選手の関係についてかなりウェットな印象を持っている人が多いことに私はいつも驚かされます。


むか〜しむかしの
「コーチと選手が二人三脚で栄光に向かってひた走る」
的な、ど根性物語がまだまだ根強く残っているのでしょうか。


そういうのは10年くらい前まではあったかもしれませんが、今はそんなことはできません。

コーチは多数の選手を見ていますから、コーチが1人の選手にかかりっきりになっていたらその他の選手が離れていきます。

昭和世代の人間は、「コーチが選手に自分の私財を注ぎ込んで、生活まで面倒を見ながら二人三脚で強くなる」という例があったことは知っていますが、今はそんな時代じゃないんです。

昔に比べたら競技人口も増え、幼い頃から動画を見て育った子供は昔よりはるかに「才能」に溢れているのですから。




「この選手はダイヤの原石。自分の手で磨きあげたい」

なーんて思える選手が次々現れる時代なんですよ。


たとえどれだけ才能があっても、コーチの言うことを聞かなかったり練習嫌いで逃げ出すような選手にまで構っていられる時代じゃないんです。



日本も昔は、1人メダリストを育てればそれでそのコーチの名声はグンと上がり入門希望者も増えたんでしょうが、今の日本は世界に選手を出す以上はメダルを取って当たり前という時代になってきています。



そして選手も自分の求めるものを目指してコーチを渡り歩く時代です。

1人のコーチだけで全て完結するというイメージはもう幻想なのです。



ロシアでは、フィギュアを習う子供達の多くがエテリコーチのいるサンボから声がかかるのを待っています。
自分から売り込みに行く子もいるようです。

サンボに行けば、何人もの優秀なコーチに教わることができるし、そこで育った先輩達のようなスター選手になれるかもしれないと思うのは当然ですよね。

確かに、サンボで優秀なコーチ達に指導してもらえば伸びる選手もいるでしょう。

でも、そこで行き詰まったら、また選手は自分にとってベストな場所を探すしかないんです。

至極当たり前のことです。


サンボに移った時点で田舎のコーチと別れてきているわけですから、サンボに移籍するのもサンボから出るのも、誰も何も言う権利はないはずなのです。


あくまで選手が決めること。

それをセンセーショナルに騒ぎ立てるのはロシアの国民性。
それだけフィギュアスケーターはロシアではスターなんでしょう。


以前私も少し「北京を制するのはワリエワかもしれない」と書いたことがあります。

ここしばらくのロシアっ子を見ていくと、エテリシステムで北京でピークに合うのは年齢的にワリエワあたりの選手だと思ったからです。



エテリコーチのところはかなり完成された指導メソッドを持っているようで、13歳で頭角を現し15歳でピークを迎え17歳で下降していくという流れが定着しつつあります。

その流れで行くと、15歳で北京を迎える選手が最強のはずです。


エテリ3強と呼ばれていた選手達も、スケート連盟やコーチが自分達より後輩を五輪の金メダリストにしようとしているのは肌で感じていたのかもしれません。

利口な選手ならサンボでの自分の立ち位置を理解し、移動しなければ先がないと感じるはずです。
それを「裏切った」などと表現するのはドロドロなドラマが好きな人たちかもしれませんが、選手が目指すのはあくまで「オリンピックのメダル」ですから、そこはもっとドライに考えるべきだと思います。



ザギトワを何故シニアに上げたのかと、コーチに不満を口にしたということでメドベデワが叩かれていましたが、不満が出るのは当たり前なんです。

選手はみんな、13歳くらいの頃は、自分は17歳を過ぎても金メダルが狙えると思っているんですから。

年齢問題でソチに出られなかったラジオノワが
「問題ない。自分には平昌がある」
と言っていたのを目にした時は、私も「18歳なら1番いい時じゃない?」
なんて思っていたものでした。


日本では普通に20代の選手もいましたし、当時はロシアっ子の体型問題を知らなかったからです。



ジュニアの女の子が「私は太らない体質」と言っているのも何度か目にしました。

確かリプニツカヤだったと思いますが、自分は太らないと言っていた2年後くらいに
「ティースプーン1杯の蜂蜜で2キロ太る」
とインタビューで答えていて、やっぱり太らないでいるというのは無理なんだと私も理解したわけです。



選手ですら自分が体型変化でどんなことになるかあまり想像できていないのです。

なのでメドベデワが、ザギトワなら北京でも良いだろうと考えていたとしても不思議はないんです。



でも、ザギトワを平昌に出していなかったら北京で戦えたと思いますか?

コーチならそれが難しいと理解できたはずです。



そういったことを知ってくると
「エテリ3強は怖くない」
と判断できるのです。



それと、エテリメソッドを見ていくと、技術を磨くのはジュニアまででシニアでは表現力を磨く方にシフトしていくように見えます。

シニアで目指すのは表現力溢れたノーミスのパーフェクトな演技。

今年のユーロで3人が次々と転倒した時、ロシアの関係者は「ついにこの子たちにもその時が来たか」と青くなったそうですが、どうやら「転倒」は彼らの中での「体型変化の合図」のようです。


GOEやPCSを上げるのは、ノーミスを積み重ねることによってジャッジの信頼を得てこそなので、彼らのなかでは転倒は絶対にダメなんだと思います。

だから、トゥルソワのジャンプを制限したのではないでしょうか。




エテリメソッドに問題があるとしたら、それは選手それぞれ違うやり方ではなく、みんな同じやり方で育てているように見える点です。

トゥルソワは明らかにアーティスト側ではなくアスリート寄りの選手です。

彼女には芸術性より、ネイサンのような高難度ジャンプをガンガン跳ばせる方法が合っているんだと思います。

彼女にはノーミスを目指させるより常にMAXの高難度ジャンプに挑戦させる方が性に合うんでしょう。



それを他の選手と同じ育て方をしても満足するはずがありません。
だから彼女がエンジェルチームに行ったのは適切な判断だと私は思うのです。

裏切っただのなんだのと言うのはおかしな話です。
自分に合った練習場所を探して移動しただけなんですから。




コーチと選手が違う方向を見ていることは良くあることです。

それを感じたら、普通は話し合いをして方向性を合わせるしかありません。


ソチの前あたりは結弦くんとオーサーも少し意見の違いがありましたよね。

オーサーもやはり完成度を求め、ソチの時は安定した演技のために4Sをやめて4T2本にするよう提案していました。

でも、結弦くんは4Sにこだわったわけです。



そのこだわりが基礎点のアップにあるのかそれを求めてカナダに行ったという矜恃にあったのか、正確なところは結弦くんにしかわかりませんが、オーサーは結弦くんの意見を聞いて4Sを認めたわけです。



中国杯でハンヤンとぶつかった時。

ボストンでハビに負けた時。

オーサーを悪者にしてクリケットから出た方がいいと騒ぐ人達がいましたが、オーサーは選手が自分の考えと違う方向を見ている時は必ず話し合いをしています。

その上で選手の言うことに納得すれば、その方向を支持し力を貸してくれるわけです。




クリケットは選手を同じシステムで育てていません。

結弦くんは集中力が高く身体が弱いので練習は短時間集中型。

それに本人が自分で細部まで考えているしチームがしっかりサポートしているからある程度は自由にやらせていい。

ハビはのんびり屋で身体頑健なので練習時間は少し多くして身体に叩き込む。

本人はあんまり細かいことは考えないタイプだから、しっかりプランを作ってやらなければいけない。



もしこういうやり方を「ハビにだけ時間を取って手をかけている!ズルイ!」という視点で見てしまうと、もうクリケットが信用できなくなるわけですが、それぞれの個性に合わせて別メニューでやっていると考えれば、むしろ効率のいいやり方と言えるわけです。


きっとロシアではコーチの力が強すぎて、話し合って選手個々人に合わせるということがないのでしょう。

少なくともサンボにはそれがないので、自分が違うと思ったら移籍しかないのだと思います。



ロシアは勝利に名誉が付随し、名誉にはお金が絡んでくるので、勝てるコーチが強い権力を持つのでしょう。

子供の頃はコーチの言うことに真剣に耳を傾けて一生懸命練習する子供が伸びます。
ただ、ある程度大きくなったら選手の自主性も大事になります。

いつまでもコーチにお任せしているようでは選手自身にも成長は望めません。

コーチの指導が自分に合っているかどうかは自分にしかわからないのですから。



コーチの権限が強すぎて意見すら言えないというのは時代遅れですから、これからはロシアの選手の移籍も普通のことになっていくのではないでしょうか。




先日、FSTVでさっとのインタビューを見ました。

日本にいた時のさっとんは、口下手で引っ込み思案でおとなしい選手という印象でしたが、なんだか大変大人になってしっかりした印象に変わっていました。


曲のこともプログラムのことも、自分で考え意見を述べて自主性が増したように見えました。

海外にガッツリ拠点を移し、コロナの時ですら日本に帰ってこなかったさっとんには、海外の方が性に合っているのかもしれませんね。

シンプルでシックなお部屋の様子からも、一見小さな子供のように見えるさっとんが、実は芯の強い大人の女性だと伝わってきました。





海外にコーチを求めるのは強い信念と長期的な視野を持たないと失敗します。

どんな有名なコーチでも、短期間の指導で劇的に変わった選手はいないのです。
そして、自分で自分のスケートを分析できない選手はどこに行っても成功しないのです。


ロシアに限らず日本でも選手の移動はありますが、成功するかどうかは選手次第です。
そこをウェットな感情論でだれかを悪者にしても意味がありません。

移籍しても上手くいかなかったのなら、それを選んだ人間の判断が甘かったか選手がそことあわなかったのか、それだけの問題です。





日本は最近もいくつかのリンクで閉鎖の話が上がっています。

東京のシチズンリンクは今はシチズン時計とは関係のない別会社になっていますが、東京24区内でリンクを維持するのは民間の力だけでは難しい時代になっていると私は思います。

土地代が違うと地方とは税金も違うでしょうからね。

施設の老朽化という問題もあるなら耐震基準を満たしていないでしょうし、そうなると維持するのも難しいのです。

ここは東京都に土地を無償で借り、新しいリンクを建設する方向で考えた方が現実的なように思います。

オリンピックが伸びたことで、辰巳のプールがアイスリンクに変わるのも伸びましたよね?
それもちょっと辛いところです。




で、最近私は
「学校にリンクを作っても強い選手は育てられないのかもしれないな」
と思うようになりました。


結弦くんの名前をつけて、早稲田大学もリンクを造っちゃえよ!なんて考えたこともあるんですが、中京と関大を見ていて、果たして大学のリンクは選手を強くできているんだろうかと疑問に思うようになったからです。



もちろんこの二つの大学が錚々たるスタースケーターを排出してきたのは知っています。

でも、その選手達はきっと大学に入る前から強かったんですよ。


大学はリンクを造ることでスターを囲い込んだだけで、そこで選手を見出し育てたわけではないのです。
逆に、そこに自由に使えるリンクがあったから、海外に拠点を移すなど厳しい環境に身を置くことをためらってしまったのかもしれないなと思うようにもなってきたのです。


大学のリンクの欠点は
「そこには自分のコーチがいない」
ことだと思うんです。

ほとんどの国がそうなのかもしれませんが、コーチは1時間いくらという報酬らしいので、週末だけコーチについて平日は自主練習という選手も多いんだと思います。


真央ちゃんもそうでしたよね?

私はソチの頃まではそういったことを知らなかったので、選手は毎日コーチのもとで練習してるものだと思っていました。

真央ちゃんがタラソワコーチについていた時はロシアで練習しているんだと思っていたし、信雄コーチに移ってからも、信雄コーチは名古屋にいるんだと思っていました。

ライトファンの知識なんてそんなもんです。


それが、毎週末真央ちゃんが信雄コーチの拠点である横浜に通っていたということを知ったのは結弦くんのファンになってからです。

週に一度コーチの指導を受けて、それ以外の日は大学のリンクで自主練していた選手と、毎日コーチのもとで練習している選手では環境が全く違うでしょう。




大学のリンクをメインに練習するなら、自分自身で自分の練習プログラムを作って計画的にやらないと逆に崩れていきかねません。

そこは大変大きな問題ではないでしょうか。


最近、中京関大の選手が大学のリンクではなく外のリンクを拠点にすることが増えてきたように思うのですが、そこに有能な指導者がいないとリンクがあるだけではダメだとわかってきたのではないでしょうか。

だからといって外のリンクを使うとお金がかかります。

本当に難しい問題です。





どんなスポーツもそうですが、強い学校には強くしてくれる指導者がいます。

指導者がいない施設は宝の持ち腐れになるのです。



関大は一応3人のコーチが拠点としていますので指導者はいますが、中京はどうなっているのでしょう。

最近、泉佐野リンクが出来たことで、関大にいた権力者達がごっそりそこに理事として移っていきました。
なおかつナショナルトレーニングセンターとしての機能も泉佐野リンクに持って行ってしまいました。

これでは大学側にメリットが残らなくなってしまったのではないでしょうか。


これ以上有力選手が他の大学に行ってしまうことが続けば、大学のリンクも決して安泰ではない。
そう思うのは私だけでしょうか。






ロシアは他の国と違い、勝利の後に与えられる名誉の桁が違うようで、選手も指導者も日本より厳しい練習を普通と考えているようです。

そこは他の国のことなのでどういう環境なのかはわかりませんが、暴力やセクハラでなければ外野が口を挟む権限はありません。
というか、そこに権力者がいれば暴力やセクハラさえも見て見ぬふりをされるお国柄かもしれません。



フランスは過去から現在に至るまでのセクハラパワハラが問題になっていましたが、フィギュアはセクハラについては寛容な競技でもありました。

教え子に手を出すコーチなんて昔からいましたし、「恋をすれば演技に幅が出る」なんて言葉は幾度となく聞いてきました。

私は「色気」を売りにするのが好きじゃありませんが、世界中の関係者が演技に「色気」を求めているのも事実です。


「色気こそすべて」なんて言う関係者がいるのに「それはセクハラじゃないか?」と発言するのは大きな矛盾を抱えているようにも思います。

でも、フィギュアがスポーツとして、スケーターがアスリートとして、権力に押しつぶされたり大人に食い物にされたりしないで競技を続けていけるよう、関係者達には環境を整え支援してやって欲しいと思うのです。


必要なのは、選手一人一人の個性に合わせて指導方法を変えられる指導者とリンク、そして静かに選手を見守ってくれる競技団体です。


でも、女子レスリングも体操もボクシングもテコンドーも、もっとさかのぼれば柔道も、選手よりコーチや理事らが権力争いをしているのは同じです。
そして、そういったことに選手が翻弄されている状況です。


フィギュアは女の子の健康問題もあり、シニアの年齢を17歳に引き上げる方向に進みそうです。

ただ、ルールを変えない限り、今のままではジュニアで選手が大渋滞を起こすであろうことは目に見えています。
国を代表できる選手の数が増えるわけではないので、ジュニアで潰し合いが起きるだけです。

つまり、子供たちはジュニアで消費され、シニアに上がってこれる選手が減るだけなのではないかと思うわけです。


子供たちが夢を持ってスケートをしているにもかかわらす、大人たちがその夢にお金を賭けて名誉の奪い合いをするなんてことはしないで欲しいものです。


そして選手達も、自分にとって何が一番大切かを考え、自分で道を切り開いていって欲しいなと思います。


最後に勝つのは自分で自分を高めることが出来た人間なのですから。




以上