「羽生結弦は天才である」

この言葉に異論を唱える人は、もういないと思います。

ノービス(9歳~12歳のクラス)でチャンピオンになるとジュニア(13歳~18歳のクラス)の大会に特別参加出来るのですが、中学1年の時にその大会で、居並ぶ高校生らを尻目にあっさり3位。
(その時の1位は無良くんです)

13歳になり正式にジュニアになって参加した全日本ジュニアで、ショートでトップだった18歳のまっちーを逆転しての優勝。
(「それから1度も勝ててないんじゃないかな?」とまっちーはテレビで言っていましたが、09年の全日本選手権で1度だけ結弦くんに勝っていました。まっちー4位、ゆづ6位です)

その年の世界ジュニアでは12位と惨敗を喫しましたが、14歳になった翌年は、全日本ジュニアはもとより世界ジュニアからジュニアグランプリまで、国内外全てのジュニアタイトルを取り、15歳でシニア(15歳以上)に転向。

理由は
「ジュニアでは200点を超える闘いが出来ない」
から。

ジュニアのタイトルを何回も取ることより、闘える相手のいるシニアに転向し、強い相手と闘いたい!
そんな理由で、あの子はシニアに転向したのです。


確かに羽生結弦は天才でしょう。

でも私は思うのです。
この子は天才なんて可愛いものじゃない。


怪物なんだと。



以前も紹介させてもらったSugar Autumn さんの2本目の動画です。
このふてぶてしい感じ、大好きです。


世の中には、体幹が強く、どんな相手にも当たり負けしない体力お化けと呼ばれる人達がいます。
いわゆる「フィジカルモンスター」というヤツです。

しかし羽生選手は、フィジカルの方はからっきしです。
キャッキャと騒いでバタンと倒れる(笑)「お前はXのYoshikiか!」ってなくらいの虚弱ぶりです。

喘息はまだ気をつけなければいけないレベルだし、アレルギーもあるし、食も細く怪我も日常茶飯事です。季節の変わり目には体調を崩すしインフルエンザにかかっちゃったりもします。

なのに、その虚弱な身体に異様なメンタルが存在しているのです。


私はそれを「メンタルモンスター」と呼んでいます。



私も、トラブルが起きるとワクワクする方ですし、超大型台風なんかが来ると手を叩いて笑ってしまう人間です。

被害を受ける人がいるんだから不謹慎だ、なんてことには頭が回らず、襲いくるトラブルにテンションが上がって笑いが止まらなくなるのです。


多分、羽生結弦という人間の中にも、そういった、普通の人間とはちょっと違うメンタルがあるのだと思います。



しかし、そんな異様なメンタルを持ちながら、闘うこと以外においては驚くほどにナイーブで、有り体に言えばビビリです。

「俺は絶対勝つ!絶対負けない!」
と、人でも殺しに行くのかというような目つきでリンクに出て行く少年が、日常生活では、怖くて泣き、淋しくて泣き、悔しくて泣き、腹を立てては泣くのです。

ちょっと大きな音がすると「ひゃあ!」と言って飛び上がるような性格のくせに(あくまで想像ですが、絶対そうでしょう)
「あいつには恐怖心ってものがないのか?」
と思われるくらい、恐ろしいスピードでジャンプを飛ぶのです。


コケて怪我をすることに対し、恐怖心がないとしか思えないスピードと高さに


「この子は天才なんかじゃなくて………馬鹿なんじゃないか?」


と思ってしまうほどです(笑)


安藤美姫ちゃんが言っていました。

「トリプルアクセルで怪我をしてから、怖くてアクセルが飛べなくなった。今でも、ダブルアクセルさえ苦手」


普通の人間はそうなのです。

痛い思いをすると、人間というのは恐怖心から身体が竦み、出来ることさえ出来なくなるものなんですが、羽生結弦は違うのです。

何度もコケては立ち上がり、ひたすらそれを繰り返すのです。


1分間に1回のペースで飛び、1時間に数回しか成功しない。

転んで転んで転びまくって怪我をして血を流しても、心配して声をかける人に
「コケなきゃいいことなんですよ!」
と言い捨てるだけ。


その様子を見て私は思うわけです。

「この子は天才なんかじゃなくて………マゾなんじゃないか?」


浮かれてテンションが上がって来ると、笑いが止まらなくなり、大舞台になればなるほど楽しい。

そんなメンタルモンスターに笑いながら追いかけられて、繊細なパトチャンは3度もコケて金メダルを逃しました。

「羽生は悪魔のようだった」
と言っていたと何かで読みましたが、本当にきつかったのでしょうね。

パトチャンは、来期1年間休養することを発表しています。


そうなると、面白くないのがメンタルモンスター。

競う相手を倒して勝つことが大好きな怪物にとって、倒す相手のいないフィギュア界は面白くないのです。

ぶっちゃけ、今あのレベルの点数が出せる選手は4人しかいません。

羽生結弦、パトリック・チャン、ハビエル・フェルナンデス、町田樹の4人です。


来年はパトリックがいない上、ハビエルにゆづを超えようとする気合いがない以上、来期、ライバルになるのはまっちーしかいないということになります。

銅メダルを取ったと言っても、デニス・テンはノーミスの演技をしても20点以上差が開いているので、ライバルにはまだ2年ほど早いでしょう。

となると、当面まっちーに頑張ってもらうしかないのですが、年齢的に、次のオリンピックまでまっちーに頑張ってもらうのはキツイと思います。



↑ちょっとドSを匂わせる表情(笑)

でも大丈夫!

かつてのゆづがそうだったように、ジュニアに何人ものモンスターがいるようです。

今のジュニアは羽生結弦を見て育っていますので、4回転をガンガン飛んできます。

結弦くんも、ジュニアの選手権に帯同しているコーチ陣からそういった話は聞いているでしょうから、うかうかしてられないなと喜んでいるに違いありません。

強い相手が自分より若い選手でも、容赦なく叩き潰すのが羽生結弦という怪物だと、私はそう信じています(笑)


世界中の選手が自分を倒そうと立ち向かってくるという状況は怖くはないのか?と聞かれ羽生結弦は答えました。

「ぜんっぜん! だってそれこそが、プルシェンコだったわけでしょう? そして僕が一番好きだったプルシェンコは、ヤグディンと戦ってたころのプルシェンコなんです」


強い、強すぎる。

繊細そうな笑顔を浮かべながら、とてつもなく好戦的。

「お前はサイヤ人か!」
と思うほど、あの子は戦いが好きなのです。

というか、勝つのが好きなのです。


ある日、アイスショーの練習中に、まっちーが4回転フリップを成功させたのだそうですが、それを見た結弦くんは笑っちゃうほどに悔しがり、なんと、次の練習で4回転ループを飛んで見せたのだそうです。

負けず嫌いもここまでくると、可愛くて笑えますが、その負けず嫌いが羽生結弦をここまで早く成長させたのです。
(ちなみに、フリップの方が得点は上です)


テレビはあの子の優等生的な姿しか放映しませんが、実際の羽生結弦は陽気で無邪気で、ちょっとお調子者のお子様です。

時々調子に乗って
「どうせならソチの金メダルも取っちゃいましょうよ」
なんて大口を叩いちゃったりもしたみたいですが、気が付いたらその2年後、本当に金メダルを取ってしまっている、筋金入りのビッグマウスです。

大人たちは、調子に乗って軽口を叩いているくらいにしか思っていない言葉も、実際には、ちゃんと計画を立てて実行しているために出る言葉だったりするのです。


そんなクレバーな思考の持ち主なので、周りの人間はそのうち、結弦くんがどんな厳しい状況に追い込まれても
「まあ、彼ならやれるんだろうな」
と心配をしなくなってしまうのですが、本当に羽生結弦という人間がスティールハートかというと、決してそうではないのです。


私が、あの子に惹かれる理由は、その相反する二面性にあるのです。


つづく