先日、今年の夏も計画停電があるかもしれないと、経済産業省の枝野君が発表しました。
マスコミはそれに対し、一斉に大ブーイングです。
一体何故、電力会社はああも一方的なのかと市民の間からも不満の声が上がっておりますが、マスコミは知っているはずなんですよね。
電力会社は、かかる費用を電気料金に上乗せして請求していいと法律で決められていることを。
戦後の復興を支えるためには電気というのは不可欠なものだからと、当時の政府が電力会社に絶対的な権限を与えたんです。
その権限の代わりとして、電力会社は「担当する地域に電力不足を絶対に生じさせてはならない」という重い責任を与えられたわけです。
なので、法律が変わらない以上、電力各社が偉そうな態度に出るのは仕方ないことなんです。
全ての費用を請求する権利が与えられているんですから。
東電が「値上げする権利がある」とエラそうな態度に出るのは、長年そうやって東電に権限を与えていたからであって、ある意味正しい発言なのです。
「なんで1社独占にしたの?競わせて価格競争させればいいじゃない。そうすれば、あんな上から目線の発言は出来なくなるわよ!」
そう普通は思うものですが、そうしなかった理由は単純です。
競わせることで、安くするために設備投資や安全管理を怠り、停電が頻発するようになっては困るから、です。
価格競争の末の安全軽視は、先のバス事故でもわかるように、必ず起きることです。
経費をケチって何か起きたら、電気の場合すぐさま人の命にかかわるのです。
携帯電話が半日不通になるのと、電気が半日止まるのでは、社会に与える影響が全く違います。
「携帯が不通になってもパソコンや公衆電話で対応できるように、電力会社もA社が止まっている間、B社を使えるようにすればいいじゃん」
と考える人もいるかも知れませんが、電気の場合は全く話が違います。
誰も使っていなくても公衆電話はそこにありますが、電気は使う分しか作っていないのです。
常に電力会社は、使用する電気量を予測し、その分しか作っていないというわけです。
「電気は溜められない」というのが、すべての問題の源です。
電気を溜めるにはバッテリーが必要です。
が、バッテリーに溜められる電気なんてたかがしれていますし、バッテリーほど処分が大変なものはありません。
なので電力会社は、最も電力消費の多い、真夏の午後に合わせ発電所を造ります。
そして、春や秋の、冷房も暖房もいらない時期に発電を止めてメンテナンスをします。
それが、事故を起こさず発電所を維持する理想的なサイクルなのです。
しかし、去年のあの日から原発は次々と止まっています。
その他の発電所は、満足にメンテナンスも行えないままフル稼動せざるを得ない状態です。
ぶっちゃけて言うと、電力会社の本音は、簡単には止められない原発を常時稼動させ、簡単に止められる火力発電所などで増減の調節をしたいのです。
電力各社にとって、火力発電所を1ヶ所失うのと原発を1基失うのでは、原発を失う方がはるかにダメージが大きいのです。
本来火力発電所はフル稼動には向きません。
水力発電は、水の量が自然まかせになるので不安定です。
色々な理由から、電力会社は原発に依存しています。
国民が依存しているのではなく、使い勝手の良さから電力会社が依存しているのです。
自然エネルギーへの移行も叫ばれていますが、自然相手の発電にはムラがあります。
電力が止まったことで生じる損害は、全て電力会社に請求できるという縛りがある以上、電力会社はリスクの高い自然エネルギーに移行したがりません。
今現在、家庭などで発電して、余った電力を会社が買い取る制度もありますが、これは、電力会社で発電するよりかなり高い金額で買い取っていますので、増えれば増えるほど、それはまた電力料金に上乗せされることになります。
余った電気を高値で買い上げることで、家庭での太陽光発電を推し進める目的があったのですが、初期費用が高いため太陽光発電は伸び悩んできました。
3.11以降、多くの民間企業が様々な発電システムを構築し、電力会社に電気を売り込んでいますが、電力会社はなかなか買おうとしません。
つまり、一般家庭の電力と同じく、新しい産業を支援するために高いお金で電気を買うように義務付けられているため、買えば買うほど電力会社にとっては損だからです。
そんな電気を沢山買ったら、また電気代が値上がりすることになり、結局堂々巡りになってしまうのです。
新しい発電所を増やすには、何年もの時間が必要です。
建設予定地の選定。住民に何度も説明した後の土地買収。送電するための鉄塔を立てるための土地も買収しなければいけません。
大きな施設を建てる時h、反対運動が起きるのが常なので、新しい発電所が出来るのは何年も先の話になると思います。
去年、東電が「夏に不足する電力」の中に、揚水発電による電力を入れていなかった、というニュースがありました。
本当は電力は足りているのに、不足すると騒いで原発の必要性を訴えているんだと、誰もがそう思っていました。
しかし、その後のニュース等で、揚水発電の基本となる
「夜間の余った電力で水を汲み上げて発電する」
というシステムが、そもそも電力が不足している状態ではフル活用出来ないということも知りました。
熱帯夜等で夜間の電力消費が上がると、水を汲み上げるのに電力が回せないかもしれないというわけです。
さらに、いったん水を落として発電してしまうと、再び水を汲み上げるまで揚水発電は使えません。
安定的な稼動が保証されないものを、発電可能電力に入れるわけにはいかないというのが電力会社の言い分です。
確かに、それはその通りでしょう。
揚水発電は、突然の大停電を回避するための、緊急用に考えておいた方がよさそうです。
フル稼動させている火力発電所に、もし故障でも起きたら、その時は突然の大規模停電が発生するわけで、その可能性は日を追うごとに高くなっているのですから。
電力会社が、タダで動かせる原発を動かしたいと考えるのは、ある意味当然のことでしょう。
そして、停電も値上げも勘弁して欲しい産業界が原発の再稼動を容認するのも当然なのです。
私に分かる程度のことは、当然テレビのコメンテーター達にも分かると思うのですが、彼らはこう
いった説明はしません。
ちょっとでも電力会社寄りの発言をすればバッシングを食らう可能性があるからです。
私も、だからといって原発の再稼動が良いとは思っていません。
ただ、安定的に発電出来る新しい発電所が簡単に作れない以上、原発を動かして地震の恐怖に怯えるか、原発は止めたまま、数年間は時折発生する停電を我慢するか、極端に言えば、選択肢は二つしかないということなのです。
今考えられるのは、再生可能エネルギーで発電しようと考えている企業の電気を全部買うことです。
(この場合、買い取り価格は火力発電所で発電した価格と同程度とします。多分、参入希望者の8割は脱落するでしょうが、割高な金額を支払うと、電気料金が跳ね上がります)
それと、新築住宅にソーラーパネルとガス発電システムを義務付けるか、です。
完全自家発電をする家が10万件くらい増えれば、原発1基分くらいの電力量になるかもしれません。
また、各家庭3ヶ所以上のLED照明の義務化。
各家庭が1ヶ所LEDに変えれば原発1基分の電力が節約になると言われていますので、3ヶ所変えれば3基分です。
こうしていじましい努力と並行して、新しい発電所を建設する…。
完全に原発を廃止するにはこのくらいの努力が必要だと思います。
こんなことをチマチマ書いていたら、今日のNHKニュースで同じような特集が組まれていました。
「反原発」ではなく、「脱電力会社」ということで、家庭用発電機や企業向けコージェネレーターの普及を考えようという内容です。
コージェネは、かなり前からあったものですが、いかんせんコストがかかるので、そう簡単には企業も動かなかったのですが、電気代の値上げをちらつかされたことで大きく動いてきているようです。
一般家庭用にはガス会社の「エネファーム」とかの自家発を推し進める動きも出てきました。
東電が自分でダメになって行く機会に、ガス会社が攻勢をかけている形です。
ただ、自家発やコージェネで電力会社の依存を低下させたとしても、ガスや石油を燃やすことに変わりありません。
このままいけば、京都議定書のCO2削減目標なんて、鼻息で吹き飛んでしまうのもまた事実です。
私は、「自分がどれだけのCO2を出しているか不安だったんですよ」という、電気自動車のCMが大嫌いです。
その電気自動車を動かす電気は、誰かがどこかで、何かを燃やして作っている電気です。
「自分は出していない」というのは免罪符になりません。
使う以上、自分が出しているも同じです。
「原発反対」の署名に対し、石原都知事は
「代替案も示さずに反対というだけの要求なら聞かない」
と、一蹴したようですが、代替案は一朝一夕には考えつきません。
それほどまでに、自然エネルギーは難しいのです。
ソフトバンクの孫社長は、モンゴルの大平原にソーラーパネルを並べ、ケーブルで日本に電気を送る計画に着手したと言っていましたが、それはつまり、ケーブルが通る中国や韓国に、日本の生殺与奪の権限を与えるということで、あまりにノーテンキすぎる考えです。
波のエネルギー。
太陽光発電。
風力発電。
シエールガス。
ロシアからのパイプライン。
考えても考えても、最低5年、下手すると10年はかかる問題ばかりです。
今年の夏は乗り切れるのか…。
私たちよりずっと頭がいいはずのテレビのコメンテーター達は、こういったことをもっと私たちに詳しく教えて欲しいと思います。
原発に反対するだけじゃなく「原発から脱却するにはどうすればいいのか」ということを。
以上