チベット旅行もしばらくすると、青空トイレにも抵抗がなくなり、自分達で「良さ気な場所」を探すようになりました。
私たちが探したのは民家の塀に隠れた場所。
そこでしゃがもうとした時
「あら、まあ!」
その家のお母さんに見つかってしまいました。
さすがに民家の脇はマズかったか…
ごめんなさいです。
気まずい思いで立ち去ろうとすると、お母さん、ニコニコしながら
「そんなところじゃなく、ここでして下さいな」
私たちの手を取り、お母さんに連れて行かれたのは
…畑の脇でした。
…あ、さいでございますか…
貴重な大地の栄養分を、無駄にするなと…。
(本当はね、時間をおいて発酵させないと、肥料としては使えないのよ~)
ある程度慣れた私たちでも、その時点では、まだ「人に見られない場所を選ぶ」という最低ラインの羞恥心は残っておりました。
しかし、チベットはそんなことも許してはくれない土地でした。
これから、チベットの中で、最も辺境にあるサムエ寺に向かうという時です。
そこは、川をボートで渡り、道なき道をトラックの荷台に乗って行く、チベットの中でも最も過酷な場所にあるお寺でした。
すると、高山病でへばり、泣きごとを言う新兵を、ここまで引きいてきて数々の試練を乗り越えさせてくれた軍曹が、もとい添乗員さんが言いました。
「これから、かなりの時間ボートに乗りますが、あのボートですから、川に出ると寒いのは覚悟して下さい」
ごくり…
ボートは、ボートとは名ばかりの、イカダにエンジンが付いただけのようなシロモノです。
まず船の形をしていません。当然、吹きっさらしです。
しかもちょっと雨が降ってきました。
富士山並の高地ですから、そりゃ寒いのは分かっていました。それを知っていたから、私たちはゴアテックスのパーカーや防寒用のアノラックに軍手というチベット旅行スタイルなのです。
寒さは覚悟しています。
しかし
「日によって違いますが、対岸まで1時間以上かかる場合があります。そこからトラックの荷台に乗って30分くらいの間、トイレはありません」
うわあ!やっぱりそっちか~!
「なので皆さん、ここでトイレは済ませて下さい」
は?
ここで?
ここ…ただの川っぺりで、身を隠す場所がないんですが!
そこは、ボート乗り場のような小洒落た場所ではありません。
川の浅瀬にイカダのような船を乗り上げているだけの場所です。
しかも、辺境の中の更なる辺境。
世界中からバカチンどもが集い、巡礼者だけではなく、欧米の観光客もいっぱい集まっています。
ここでトイレ…。
マジっすか!
んが!躊躇っていたのは5秒ほど!(笑)
ジェントルマン達は女性に背中を向け、女性達は固まって用を足しました。
なんつーかさ、人間、出来ないことってないよね~
だいたいさあ、汚いの不衛生だの言ってられるのは、恵まれた環境だからなのよね~
あ~日本人の価値観なんて、屁だよな~屁!
日本人よ!
そぼ降る雨の中、大河に向かって尻を出せ尻を!
小さなことなどどうでもよくなるぞ!
(いや、普通の人は出しませんよ、尻は)
済ませるものを済まし、色々な国の人間が相乗りし、ボートは無事対岸に辿り着きました。
出発時、エンジンがかからない船がいくつもあって、観光客があちこち船を移動させられていたのはご愛嬌です。
対岸ではトラックが並んで止まっています。雨が降ってきたので幌付きのトラックに乗り込んだのですが、このトラックが凄かった!
自分は今、ディズニーランドのアトラクションに乗っているんだと思い込まなきゃやってられないくらい揺れました。
幌の中でみんな転がる転がる(笑)
しかも、幌の前が開いているので、結局雨は吹き込みます。
「運転手!ゴルァ運転手!乗ってるのは人間じゃあ!ミカン箱じゃないどー!」
そんなこんなで何とかサムエ寺に到着しましたが、かなり高山病の酷かった人などは動けなくなってしまいました。
サムエ寺は、観光客がいっぱい訪れるお寺ですが、そこはチベット。
特に観光地化はされていません。
私たちも、お昼は、ホテルでパンや果物などをランチボックスに詰めてもらい持っていきました。
そして、食後はそりゃあおトイレでしょ!
もう怖いものなんてありません!恥ずかしいなんて感じることもなくなりました!
さあ、おトイレはどこ(の草むら)かしら?
お坊さんが見ていない場所ならもう、どこでだってパンツを下げる気満々よ!
しかし…
トイレはあそこの2階です、と教えられた場所は…、土で作られた四角い物置のような建物です。
え?
2階ったって、1階建てじゃん。
2階なんてないよ。
しかし、上に上る階段を上って行くと…四角い天井にいくつかの穴が…。
マジか…
もしかして、この泥で出来た建物の中は……黄金(こがね)の山か…
一緒に上って行った金髪のお姉ちゃんも呆然と固まっています。
辺境のお寺は、基本、自給自足です。畑のためには肥料は無駄にはできません。
それはわかっているんです。
だがしかーし!
大丈夫か、この泥小屋!
用を足してる時に天井抜けたりしないだろうな!
そんなことが起こったら、私は死ぬぞ!
精神的に!
つーか、ここ、確かに下からは見えないけど、お寺の2階からは丸見えじゃね?
ダメなの?
あの辺の草むらでしちゃダメなの~?
ダ~メな~のよ~
ってことで、ひとつため息をついて、金髪姉ちゃんと一緒にパンツを下げたワタクシでございました
もはや私の頭は正気じゃなかったのかもしれません。
帰りのトラックは、みんなが雨をよけるため後ろに下がったのをいいことに、幌の開いた最前列を確保。
持参した透明のやっすーい雨合羽で開口部をふさぎ、オジサンの一人と手で押さえ、前を見ながら「いやっほ~い!」とジェットコースターのようなトラックの荷台を楽しんだのでありました
さて、長々捨て身のネタを書いて参りましたが、13年も前の話です。
最近、中国はチベットを観光地化しようと企んでいるようなので、きっと今はこんなことはないと思います。
多分ね…
最近は、ネットやゲームやDVDなどで、気軽に辺境への擬似体験旅行が出来るようになりましたが、実際に行くとなるとこうしたリアルは避けられません。
高山病の話でも、まだまだ記事が書けるくらいです。
事実タヌちゃんは高山病でブラックアウトを起こし、某漫画家のエコさんは腹を壊し、かなり酷い目にあっていました。(私も腹は壊しましたが、慣れていたので旅行に影響はありませんでした)
良くも悪くも、人間は生きているのです。
観光地として整備されていない場所に旅をするというのは、苦労をするということなんです。
そして、私があまり皆さんの前に顔を出さないのは、こうした馬鹿な話題をいっぱい書くのに、面が割れると恥ずかしいからです。
なので、これからもステルスのまま、馬鹿な旅行記などを書いていきたいなぁ、と、そう思っています
ちなみに、人間、一度こういう体験をすると、ある意味、麻痺します。
数年後、モンゴル行きを計画し、旅行会社に行った私と昴さん。
旅行会社の方の「大変言いにくいのですが、モンゴルは草原に寝泊まりするため、おトイレがありません」という言葉を聞いて言いました。
「え?青空トイレですか?それなら慣れているから平気です」
こんなこと、慣れちゃいけませんからね