神々しい朝日を見たあとは、朝食前にみんなで頂上をぐるっと回る「お鉢回り」に行くとのこと。
あんたたちも鬼ですか!?

お鉢回りくらい、文字通り朝飯前なんですか?
無理です!
まだ、登りより負担が大きい下りがあるんですよ

私には無理ですって!
というわけで私は辞退し、次々と登ってくる人でごった返す山小屋に残ることにしました。
土日の富士山は、実際、思っていたよりずっと混んでいます。
山小屋で食事をする人、小屋の前でコンロを出してドリップコーヒーを入れてる集団。
8合目から登り始めて、途中で御来光を見た人達も、続々と登ってきて、頂上の山小屋はお土産を買うお客さんで大変賑わっています。
そんな山小屋で邪魔にならないよう、小屋の隅の、日の当たる場所に座り、私はひなたぼっこをしていました。
太陽って凄いよなあ。
こんな寒い場所なのに、太陽が当たっていればポカポカするよ…

疲労と寝不足の体に、太陽の光はあまりに気持ち良く、私は、ご老人達に混じり、山小屋の柱にもたれてうとうとしていました。
すると
「水、飲むかい?」
と、山小屋のご主人が気を使って話かけてくれました。
「あ、すいません。有り難うごさいます」
「なんか食べるかい?」
「あー、じゃあラーメンを…」
こんなに混んで忙しいのに、随分気を使ってくれるなあと思っていたのですが…
…ちょっと待て!
私、死にかけてると思われてないか?

大丈夫ですから!![]()
眠いだけで生きてますから!![]()
頭も痛くないし、ピンピンしてますって!
あの鬼達についていけないから、自主的に残っているだけですから!
体力温存しているだけですから!
山小屋のご主人の目には、死にかけているため群れにおいていかれた生き物にでも見えたのでしょうか。
「ちょっと遅くなったから」といって、ラーメンも100円値引きして貰っちゃいました。
(目の前には、もっと遅くなったのにしっかりとられていたカップルもいました
)
そうこうしているうちに
「あー疲れた~!お腹すいた~
」
と言って友人達が帰ってきました。
これから下山なのに、なぜに疲れることをするのでしょう。鬼たちの考えることは訳が分かりません
そして、朝ごはんを食べ、お土産を買って、ひと休みしてから出発です。
下りは須走口を降りていったのですが、足元が火山灰でフカフカです。これは結構きついです。傾斜があるのに足元がズルズルするので気を抜けません。
「なるほど、確かにこんな道では足首まである靴じゃないと、靴の中に石ころが入って大変だ~」
油断をすると滑って転びそうです。
そんなヨロヨロの私に、大学の山岳部出身のお兄ちゃんが、楽に山を下れる歩き方を伝授してくれました。
まあ何ということはありません。体をほんの少しだけ前に倒すと、体が自然と前に進むのです。
「あ、本当だ!前に前に、体が勝手に進んでく~(笑)」
しかし、悲しいかな私は初心者。加減というものがわかりません。
スタスタと歩けるのに気を良くし、調子に乗ってスピードを上げていたら
ガキッ!
「うぎゃ~!
」
突然、左足に激痛が走りました!
「痛い!痛い!痛い~!なんだか知らないけど痛い~~
」
数年後にMRIを撮って原因が分かるのですが、私はこの時、膝の半月板を割ってしまったのです。
しかし、この時の私にそんなことが分かるわけはありません。
ただひたすら痛みを我慢しながら歩くしかないのですが、私の膝の痛みがみんなに分かるわけもなく、当然のことながらまたしても私は遅れていきました。
とにかく、左足に体重をかけると激痛が走るので、体を横に向け、右足が下になるようにしてえっちらおっちら下山するのですが、その姿はどう見てもカニ歩きです。

私は、カニ歩きで富士山を下山した女なのです!

体力はなくとも根性はある!
と、自慢したいところですが、当たり前です。
自分の足で登った山は、自分の足で下りなければならないのです!
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まあ、時間はかかりましたが無事下山することも出来、5合目に置いてあった荷物の中から、色々なサイズに切ってあった湿布を出して、全身に貼りまくりました!
にもかかわらず、翌日から数日間全身が筋肉痛
ヨチヨチと歩くその姿に、しばらく会社では「ロボコップ」だの「ペンギン」だのと呼ばれる羽目になってしまったのでした。
能天気で何にも考えていなかった私ですが、旅行会社の方の同行しているツアーの一環とはいえ、なんとか無事頂上まで行くことができました。
もともと気圧の変化に弱く、国際線の飛行機では死ぬほどの頭痛を経験する私ですが、あまりにゆっくり登ったせいか、登山では頭痛のズの字も経験することがありませんでした。
また、人に聞いた話では、二日間全く雨が降らないということは滅多にないらしく、私達が登った時の天候は、何度も富士山に登っている人も初めてというくらいの良いお天気だったのだそうです。
桜色に染まる雲海。その雲に映る富士の影。
目の悪い私にさえはっきり見えた天の川。流れる星。
真っ暗な中、眼下に広がる下界の灯り…。
そして、感動的な御来光。
何もかもが美しかったです。
(見ている時は死にかけていましたが。笑)
本当に、素直に「神様有難う!」と言えてしまうほどの幸運に恵まれた初登山でした。
ま、2度と山に登れない足になってしまいましたが
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その後、自分も富士山に行きたいという人の話を何度か聞きましたが、あまりの悪天候で途中断念した人、高山病で途中から登れなくなった人、等々、なかなかに頂上にたどり着くのは難しいようです。
今年もきっと富士山は混むのでしょうが、日本人に生まれたからには、チャンスがあるなら一度はチャレンジしてみるのもいい…それが富士登山かもしれません。
今年登る方々に、天気の神様が味方してくれますように、心からお祈りしています。
あ、私はもう登りませんから![]()

