「妻の失踪」
妻が姿を消してから今日で17日目になる。これまで僕たちは比較的上手くやってきたハズだった。どうして急に妻が家を出て行かなくてはならなかったのか見当も付かなかった。
「あまりハッキリと覚えていないんです」
彼はいかにも気が弱そうにオドオドと言った。
「なにせ酒も入っていたし…」
「よく思い出してみて下さい」
僕は彼の目を覗き込む様にして言った。
「妻と僕の共通の知り合いであるあなたが最後にすがる一片なんです」
僕の前から姿を消したあとの妻の、唯一の目撃者である彼に、僕はほとんど懇願したい気持ちだった。
「確かにユミコさんだったと思うよ。姿形はね。ただ…」
「姿形は?」
「何だかその、ユミコさんの身体を借りた何か別のものに見えたんです。それでどうも声を掛けそびれてしまって」
僕は混乱した頭を鎮めるためにコーヒーを一口飲んだ。ユミコの身体を借りた何か?一体彼は何を言っているんだ?僕はユミコの姿形をしたその何かが街の雑踏を歩いているところを想像してみようとしたが、上手くいかなかった。
しかし、と僕は思った。たとえそれが彼女本人でなかったとしても、ユミコへの手掛かりとなるのならば何としてでも見つけ出さなければならない。彼と別れたあと、僕はひとり決意を新たにした。