「試練」
拾い集めた記憶の破片は思いのほか僕の指先を深く傷付け、深紅の血を流させた。僕はしばらく血が滴り落ちるのを眺めていた。それは遠い昔に忘れてしまったはずの記憶だった。いや、忘れた事にして目を背けていただけなのかも知れない。裏切った約束、傷付けた友人、もう戻る事のない日々。止めどなく流れ続ける鮮やかな血がやがて血溜まりを作る頃、僕は意を決してその出来事と向かい合うことに決めた。明日は同窓会だ。
「珍しいわね、貴方が同窓会に出席するなんて」
「ああ。たまにはね」
結婚して十二年の間、僕が同窓会というものに出席するのは初めてだった。妻は特に疑念の目を向ける事なく快くそれを送り出してくれた。僕は軽はずみな気持ちから友人の秘密を暴露してしまい、それ以来その友人とは口をきくことが無くなってしまったのだ。誰しもが持つかも知れない学生時代の淡く苦い記憶。僕は人づてにその友人が大病を患ったこと、そして今回の同窓会に出席する事を聞き、明日の参加を決意したのだった。
時として人は机の引き出しの奥にしまい込んだ忘れたくとも忘れられない古い記憶と向かい合わねばならないときが来るのだ。僕は翌日、その試練へとおもむく事にした。