「浜辺の街にて」
海から吹く風が部屋のカーテンを揺らしていた。9月初めの陽射しはまだまだ強くはあったが、夏の盛り程のギラギラとした肌を刺すような刺激は無く、どこか爽やかな印象を与えていた。カモメの鳴く声がした。
「もう夏も終わりかな」
僕がつぶやくと彼女は読んでいた雑誌から目を上げて言った。
「寂しい?」
「少しね」
潮の香りの届く浜辺の街に住んでいると、夏の終わりに敏感になるものなのだ。
「何かやり残した事でもあるのかしら?」
「君と散歩がしたいな」
「散歩?」
「夏の終わりの街や浜辺を目に焼き付けておきたいんだ。波の音や潮の香り、カモメの鳴く声なんかもね」
「不思議ね、私も同じ事を考えていたの」
彼女は微笑みながら僕の顔を見て言った。
「こんなに海の近くに住んでいるのにね」
「海の近くに住んでいるからかも知れないよ」
午後2時半、僕たちは夏の終わりの街へ散歩に出掛けた。何か夏の間に見落としたものでもありはしないかと、キョロキョロと辺りを見渡したりしながら、ゆっくりとした足取りで。