ホテル | shingo722のブログ

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 「ホテル」
 
 それは奇妙なホテルだった。僕はそのホテルで一人のフロントマンの男を除いて誰とも出会わなかった。人の影すら見えなかった。
「210のお部屋です」
 フロントマンは言葉少なに言った。にこりともせず、ごゆっくりとも何とも言わなかった。僕は静まり返った廊下を歩くと210の扉にキーを差し込んで部屋に入った。
 簡素な部屋だった。シングルベッドと書き物机、中ぐらいのサイズの姿見、何もかもが必要最低限だった。僕は窓際の椅子に腰を下ろすと窓に肘を掛けて外を眺めた。まだ昼前だからか、外を歩く人はほとんどいなかった。建物の影は必要以上に長く、まるでデ・キリコが描いた絵のように通りはがらんとしていた。
 ルームサービスを頼もうかと思ったがどこにも番号が載っていなかったので、諦めて外に食べに行くことにした。財布だけを持って部屋を出ようとしたとき、ふと気になって窓の外を見てみた。時刻は12時半を過ぎていたが、そこには人影一つ見られなかった。オフィス街とはいえ、いくら何でも人が居なさ過ぎる。昼休みのOLが歩く姿も見えない。僕は困惑した頭を抱えたまま椅子に座り込んだ。今日この街に来てから一体何人の人に出会っただろう?あのフロントマンの男と、他には?考えているうちに僕はどこかに出掛ける気がしなくなってきた。まるで長い間どこかに閉じ込められて徐々に気力を失ってしまったかのようだった。その奇妙な街の奇妙なホテルの一室で僕は一人、めまいにも似た奇妙な気怠さを感じていた。