「海の家」
僕はある海沿にある町で生まれ育った。そこで東京の大学に入るまでの18年間を過ごしたわけだが、毎年夏休みになると地元に帰って来て海の家でアルバイトをしていた。
ヨウ子さんと出会ったのは海の家でのアルバイト仲間としてだった。彼女は夏の日差しを受けながらどこか物憂げで影のある人だった。仕事のよく出来る人だったが気取ったところは無く、僕は密かに憧れの念を抱いていた。彼女は僕より年は2つ上だったが、毎年アルバイトのたびに顔を合わせ、次第に親しく口をきくようになった。そして大学4年の最後のアルバイトの日、僕は彼女に想いを伝える決心を固めていた。
その瞬間は唐突に訪れた。僕が初めて顔を見る、よく日焼けした背の高いサーファーが彼女に声を掛けた。振り向いた彼女が彼の顔を見た瞬間、そこに劇的な変化があらわれた。彼女の全身を覆っていた薄い影のようなものは真夏の陽光のもとに消し去り、眩い笑顔が彼女から溢れ出した。彼女は本来の自分を取り戻したのだった。それと同時に、僕の夏は終わりを告げた。