「桜」
咲き始めた桜が春先の雨でほとんど散ってしまった。満開を迎える事なく散っていった桜の未練は如何ほどだろう。緑の葉がちになった桜の木を見ながらふとそう思った。
東京の家を引き払うとき、読みかけの小説や、パソコンに残った書きかけの自分の文章も処分した。自分の中での区切りのつもりだった。家業を継ぐために田舎に帰るという名目こそあったが、夢半ばで挫折したことに対する言い訳のようでもあった。未練を断ち切るようにして東京での暮らしに関するものを片端から処分していったが、何となく後ろめたさは残っていた。
あらかたの片付けを終えてベランダに出て一服していると、最早葉っぱばかりになった桜の木が再び目についた。美しく咲き誇ることはなかったが、鳥や虫たちの憩いの場になっているその様子を見て、僕は自分の人生の再出発について思いを馳せていた。