「平衡性」
虚構と現実性の狭間で僕はなんとか自分自身の平衡性を取り戻そうともがいていた。あるゆる物と適切な距離を取ること。必要以上に深入りしないこと。それが僕自身が数多くの失敗から学んで来たことの一つである。一時の情に流されて距離感を見失い平衡性を欠いてしまえば、それを取り戻すためにはより多くの時間と努力を払わねばならない。今の僕にはそれに割く余裕は無かった。
「もう会わない方がいいと思うの」
彼女にそう言われたとき、僕はもちろん傷付きこそしたが、当然の帰結かなと思った。僕にすべき事はすぐに体制を立て直すことだった。しかし彼女を失ったことでもたらされた喪失感は予想以上に僕を苦しめた。運命の大きな流れの中で僕は傷付いた心と身体を抱えながら、必死に流れに抗おうと泳ぎ続けていた。