「仮説」
僕は新しく女性と知り合ったとき、様々な仮説の奔流にさらされる。「もしこの人と付き合ったら」「結婚したら」「子どもが出来たとしたら」「住むとしたらどんな家に」などなど、およそ愚にもつかない妄想が僕の頭を駆け巡る。例えば知り合いの開くパーティーに出席したときなんかがそうだ。
「どんなお仕事をされてるんですか」
「まぁ、色々…」
ずいぶん綺麗な顔立ちだなぁ。
「文章に携わるお仕事とお聞きしたんですけど」
「えぇ、まぁ、そんなところで…」
自分に自信もありそうだ。
「○○さんをご存知かしら?編集の仕事をしているんだけれど…」
結婚したら尻に敷かれるんだろうな…。
ここまで来るとほとんど彼女の話を僕は聞いていない。
やがて仮説の流れが収まり、所詮は妄想だという辺りに落ち着く頃になると、
「ではまた、お会い出来る機会を楽しみにしていますわ」
「どうも、それでは」
という具合に会話も収束していく。仮説の流れは小さな渦を巻くと穏やかな川の流れとなって世間の一般論の海へと続いていく。
パーティーの会場を出る頃には僕は小さくため息をついて「せめて何かアクションを起こしてみるべきだったかなぁ…」と思う。
仮説はあくまで仮説なのである。