ヤマンバ | shingo722のブログ

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 「ヤマンバ」
 
 「トマトときゅうりは夏野菜だから今のうちに豆さ撒いておくのさ」
「ふーん」
「ばぁばが畑にアゼをこしらえるから、おめぇさは同じ間隔でパラパラと豆さ撒いていってくれ」
「わかった」
 都会から越して来た僕は田舎の学校に馴染めず、暇さえあればここに畑仕事を手伝いに来ている。
「ねぇ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
「おばあさんはヤマンバだって本当?」
「村の子供らはみんなそういう噂しとるみたいだな」
「じゃあ違うの?」
「別にオラはおめぇのこと取って喰いやしねぇよ」
 大人が言うには、このおばあさんは一人息子が死んでからは村の皆んなとの付き合いもなく、畑に囲まれた家に引きこもって自給自足のような暮らしをしているらしい。たまたま山道を歩いていてここに迷い込んだ僕は、庭で血まみれの包丁を持ってニワトリを捌いていたおばあさんを見てヤマンバの噂を思い出し、腰を抜かした。ちなみに言うまでもないことかも知れないが、僕の両親は僕がおばあさんの家に通っていることを良く思ってはいない。
「僕ね、学校があんまり好きじゃないんだ」
「そうか、別に行きたくなきゃ行かなくてもいいんじゃねえか」
「そう思う?」
「ばぁばも戦争であんまり学校に行けんかったけど、野菜を作るのに不自由はせんよ」
「そっか」
「さ、ひと息入れて茶でも飲むべ」
 田舎の空は澄み渡り、どこかで雲雀の鳴く声がした。僕とおばあさんが過ごす時間はゆっくりと過ぎてゆく。